空から少女が降ってくるお話

【降臨賞】空から女の子が降ってくるオリジナルの創作小説・漫画を募集します。

条件は「空から女の子が降ってくること」です。要約すると「空から女の子が降ってくる」としか言いようのない話であれば、それ以外の点は自由です。
字数制限 : 200〜1000 字程度

字数制限を度外視したら物凄く長くなりました。なんだこれ?ってぐらい。

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そんなに慌しく動き回ったところでどのみち焼き討ちにされちまうってんだよ・・・

まだ陽も高いうちから蕎麦屋の軒先でビッタクタビッタクタと酒を呑み恨めしい眼差しで往来に向かって罵詈雑言を吐いている男の元へ、店から出てきた若い女中が声を掛ける。
「牛ちゃん、もういい加減でお終いにしときなさいよ」
「ああ、うるせえな。あんたはおれのカカアかなんかのつもりか」
「ばっ。誰があんたなんかの連れ合いになるもんかい」
若い女中は捨て台詞を吐くと頬を赤らめて通りの向こう側へと駆けていった。
おれは知っているんだ。このあいだ屑屋の吾作に聞いたんだ。幕府の側に付いた村や町は朝廷の連中に焼き討ちにされて男共は打ち首で、目ぼしい女は置屋に売られて残りはみんな蛸部屋に放り込まれんだ。しかしどうして殿様は幕府の側なんかに付いたんだ。阿呆か。賽の目だって読めねえような殿様風情が一世一代の大博打に市井の人を巻き込むなんて迷惑千万甚だしい。どのみち死んじまうのだからいまさらあくせく働いたところでどうもならんわ。ま、これまでまともに働いたこともねえけどさ。へへへ・・・グビリ

男は鍛冶屋の倅で名を牛馬郎といった。室町末期から続く刀鍛冶の家系で戦乱の世に乗じて一家は枝葉を広げてきた。江戸初期の頃には名匠と謳われる巌窟爺が東日本の鍛冶屋衆を束ねたこともあったが、その息子である広志が絵に描いたような放蕩息子で女と酒と博打に溺れ、以来本家一族は痩せ衰えていった。ただ広志がほうぼうに拵えた子の中にヴァン・デル・彦兵衛という和蘭娼婦との間に生まれた子がおり、日本人離れした六尺七寸もある体躯で毛むくじゃらかつ赤ら顔であったので、大根すらロクスッポ斬れぬようななまくら刀であっても彦兵衛が一振りすれば、おお、赤鬼の一太刀だ、とこぞって侍たちはこれを求めた。やがて居を構えた片田舎の町のみならず他藩にまで名を轟かすほどの女郎の元締めとなった彦兵衛の母ヴァン・ラーが、仇討ち専用出刃包丁を息のかかった遊郭に常備するよう手配したため、ヴァン一族は隆盛を極めその刃物は宝剣と呼ばれるようになっていった。ヴァン宝剣。

牛馬郎の一族はヴァン一族とは本人すら親戚筋とは気付けぬほどの傍系で、広志が拵えた子の中の一人に清という男がおり、彼は殺生を好まない朴訥とした男で刀鍛冶とはならず農機具、鋤とか鍬とか、の鍛冶を生業としていた。その末裔に権次という男がおった。ある年の牛追い祭りの際に興奮して暴れ狂った牛が庄屋の娘ウメを襲い、祭りの輪から外れた土手に腰掛けて様子を眺めていた権次が騒動に気付くや疾風の如く牛の前に踊り出て、股間に垂れ下がる深紅の褌目掛けて突進してきた暴れ牛をひらりしゃなりと交わすと手にした熊手で牛の尻尾を見事に絡め取り「オーレッ」と一声掛けると二百貫はあろう猛牛を土手の向こうへ投げ飛ばし、寸でのところでウメを救出した。庄屋は勇敢な権次に惚れ込み、ぜひうちの娘を嫁に貰ってくれと懇願した。ウメは町でも評判の美人であったが男児と見紛うほど貧相な乳房が陰ながら不評で、年頃になっても貰い手がおらず庄屋は不憫に思っておった。牛追い祭りが済んだらあの痩せこけた胸板に籾殻でも詰め込もう、と悲壮な覚悟をしておった庄屋の眼前に天啓と呼ぶべき出会いが生じたのであるから庄屋としてはこの機を逃す手はあるまいと、祭りの翌日から権次の家へ使いの者を日参させた。

あるときは米俵を担いで、あるときは菓子折りの下に金子を忍ばせて使い者たちは足繁く権次の元へ日参したのだが、権次は生返事をするばかりでまともに話を聞いてなかった。それどころか次第に居留守を使うようになったり「権次さんは出掛けております」と惚けた口を開くのだった。庄屋の蔵から貢物が出されれば小作農の百姓からの徴収も厳しくなるのは当然で、なかなか首を縦に振らない権次の家の前に貢物が堆く積まれる頃には町の人々の生活は厳しい取立てに貧窮するようになっていき、そうなってくると使いの者のみならず町の人々までもが権次の元へ嫁に貰うよう嘆願しに行くのだった。まるで欲のない権次であったがウメを貰うとなると、はるか先祖の広志の血である無類の巨乳好きの血が胸中をざわつかせ、たとえ十把一絡げで馬鈴薯のような顔をした娘であろうと乳は、乳だけは・・・と中々踏ん切りがつかなかった。契機が訪れたのは百姓の嫁の一人が厳しい暮らしにほとほと疲れ果て川に身を投げたときであった。嫁はたいそうな巨乳であった。このままでは町の巨乳が全て姿を消してしまうと権次は遂に折れ、ウメと祝言を挙げることにした。町の人々はようやく苦しみから解放されると喜び、権次の決断を讃えて「権次の元へ巨乳の妾が現れますように」と祈願して『権現堂』という名を冠したお堂を建てるなどした。

晴れて夫婦となった二人であったが巨乳崇拝妄想癖の権次と、無意識下で自らの乳房にコンプレックスを抱いておった生娘ウメとが果たして上手くいくものかと人々は心配した。ウメが恥をかくようなことになり、もし顛末が庄屋の耳に入れば権次もただでは済まされないだろうと。しかしながらその心配は取り越し苦労に終わった。生粋の生娘ウメの奥深くに眠る野生的な性の本能と権次に流れる広志のDNAが核融合し、初夜から数日の間、日暮れから翌朝陽が昇るまでウメの絶叫が向こう三軒両隣を越えてなお響き渡った。当初は気後れしていたウメを心苦しく思っていた権次も日を追うごとに心も股も大きく開くようになったウメに心酔し「ワシが帰る頃は裸の上に前掛けだけ着けて待っておれよ」とか「ワシのことをご主人様と呼ぶようにせよ」などとその性癖を露にしていった。とても口にすることはできない猥雑な夜をいくつも越えて仲睦まじい夫婦となった二人に子供を授かることなど造作もないことだった。子を孕んだウメの悪阻は相当に酷く生家に帰り静養することとなった。そのせいで夜な夜な響き渡るウメの獣のような咆哮がようやく止んで町の人々に安眠がもたらされた。

生家で生んだ赤ん坊に、二人が出会った牛追い祭りの「牛」と、権次の馬並みなイツモツの「馬」と、男子であることを示す「郎」を併せた『牛馬郎』とウメが勝手に名付けてお役所に届けた。これを鍛冶仕事の最中に聞いた権次は大層怒り狂い庄屋の屋敷に怒鳴り込んだのだが、そのときちょうどウメは牛馬郎に授乳しており、肌蹴た着物から覗く青白く血管が透けて見えるほどの真っ白かつパツンパツンに膨らんだ乳房を見て、頭に上った血が一気に下腹部へ集中して怒りは収まった。妊娠すると乳房が膨らむ生理現象は当たり前の話だがウメのそれは規格外の膨張率であった。元々鶏がらと揶揄されるAAAカップであったウメの乳房は妊娠直後から膨らみ始め、出産の頃にはFカップほどの大きさまではちきれんばかりに膨らんでいた。こちらも規格外の膨張率を誇る股間を腫らして権次はウメの後ろ手に回り込みその膨らみをそっと触ってみた。固かった。権次の指先が期待していた触感が伊太利亜のジェラードだとするとウメのそれは仏蘭西バゲット並の固さだった。困惑した権次は咄嗟に花笠音頭を口ずさみ後ろ歩きで安来節を踊りながら屋敷を後にした。

十月十日お預けを食らいなおロボパイを掴まされた権次の悲しみはいかばかりか。家に篭りさめざめと泣き濡れた。そんな噂を聞きつけ一人の女が尋ねてきた。すぐそこの辻を曲がった先の長屋に住む碁石問屋の嫁、お市であった。実のところ権次が類稀なる手練であることは欲求不満な町の女たちの間で前々から噂になっていた。精気の抜けた権次の隣に座りじっと様子を窺っていたお市は「ねえおまえさん、あたしじゃだめかしら」と言うが早いか権次の顔を乳牛のような乳房で挟み込んだ。彼岸を向こうに賽の河原で石を積んでいた権次の頬に柔らかな感触があり、現に戻ってきた権次は涙ながらに声を漏らした「おいちぃー」。名を呼ばれたと勘違いしたお市は悦び、暇を見つけてはやってきて狂ったように天狗を貪った。その不義密通はやがてお市の旦那の知るところとなり彼は目を白黒させて役所へ駆け込みお市デスペナルティの憂き目に。市中引き回しの刑に処された彼女の骸は白い肌の上に黒い痣をつくり「この形は鶴の巣籠もり。さずが碁石問屋の嫁である」と天晴れな散り際であった。

味をしめた権次は次々と有閑マダムたちを手篭めにした。家に帰ってきたウメと幼い牛馬郎を置いて「炉を山に移したほうがいいと思うんだよね、うん」と山に向かい簡素な掘っ立て小屋を拵えてホスト稼業に勤しんだ。ただお市のこともあったのでいちおう鍛冶稼業を営んでいる体裁を整え、尋ねてきた婦人には「鍬ですか?鋤ですか?」と問い掛け「鋤(すき)にしてください」という符丁を使うことにしていた。そう答えた婦人には形ばかりの仕事場である土間の奥にある座敷に敷いてある布団で横になってもらい、肉屋のトン吉くんに貰った牛の腸で作ったお手製のサックを装着して応対する仕組みになっていた。トン吉くんが言うには「布団が回るカラクリがナウい」とのことだったので、徴収しているセット料金が貯まり次第そいつを導入しようと目論んでいたし、トン吉くんの釣り仲間である菓子屋の佐藤さんが言う「中は鏡張りで風呂桶は泡が出るとよろし」との設備類については、もうそれは発注してあるのだった。

ある日腰の曲がった齢90を越えた婆さんが小屋へやってきた。まさかとは思ったが権次はいつものように「鍬ですか?鋤ですか?」と尋ねると婆さんは「しゅ、しゅ、鋤にしてくだしゃい・・・フガフガ」と抜け落ちて歯のない洞窟の奥から蚊のなくような声を絞り出した。ワシも遂にここまで来たかと妙な感慨に耽りつつ奥の座敷で寝て待てと告げ権次は支度を始めた。座敷の襖を開けると婆さんが布団の上で仰向けに寝ており、権次は傍らに膝をついて「爺さんが死んでどれくらいになるね」と婆さんに語りかけた。「か、か、か、かれこれ、三十年なりまひゅ、はい」と婆さん。「そうかい」と言って権次は婆さんの股座に手を潜り込ませた。「あ、あ、あ、あんたなにをしとるのかにぇ」婆さんが驚いてそう言うと権次は微笑んで「これも死んだ爺さんへの供養みたいなもんだよ、あんたも女だってことさ」と手をシュッシュッと動かした。婆さんは「こ、こ、これ、年寄りになにをする」と言って抵抗を試みたが体が上手く動かず爪先をじたばたさせた。「なあに、すぐよくなるさ」と権次が激しく手を動かしたそのとき焦げ臭い煙が婆さんの股座から立ち昇った。「そ、そ、そんな乾ききったところを擦ったら・・・」それが婆さんの最期の言葉だった。煙が出たと思った次の瞬間火が出て、あっという間に煎餅布団に燃え移り婆さんもろとも小屋を焼き尽くしてしまった。

1.7haほどの山火事を出した権次は消火にあたった消防署の職員や消防団の連中に散々厭味を言われ町へと戻り授乳期を経て貧乳に戻ったウメと牛馬郎と三人で慎ましく暮らした。牛馬郎はウメの美貌を十二分に受け継ぎ少女と見間違うほど美しい少年となっていった。牛馬郎が16歳になる頃、2つ年上の右左衛門という躾の悪い侍と出会った。右左衛門は常、虚無僧の格好をしており虫の居所が悪いと「うぜえんだよ」と辻斬りをしては憂さを晴らすようなロクデナシであったが、牛馬郎と一緒のときは年長者らしく振舞い「牛ちゃん蕎麦食いに行こう。奢ってあげるから」とよく蕎麦屋へ出入りしていた。ただ蕎麦を食うときも頭から深編笠を外すことなく笠の下から器用に蕎麦を啜るのだった。いつもその風貌から男女と馬鹿にされていた牛馬郎であったが右左衛門が一緒のときは憎まれ口を叩く小僧どもを片っ端から叩き斬ってくれていたので兄のように慕っていた。そんな二人であったが黒船の来襲により事態は急変する。町の殿様が幕府側に付いたことで仕官は皆、反朝廷の軍隊として徴兵され戦地に赴くことなった。出兵前夜、いつもの蕎麦屋でしこたま呑んだ右左衛門と牛馬郎は桜並木を夜風に吹かれ千鳥足でワルツのステップを踏むように歩いていた。
「右左ちゃん、戦争なんて行かないでよう」
「牛ちゃん、拙者だってお別れはしとうないでござるよ」
「だったら、おれと一緒にずっと蕎麦食っていようよ」
「はは。お殿様に忠義を誓った以上、ペルリを討ち取らねばなるまいよ」
「返り討ちに遭うのが関の山だって!あいつらピストル撃ってくるのに!」
「これも天命でござるよ・・・」
「やだよ、右左ちゃん!おれ、右左ちゃんが居なくなったら泣いちゃうよ・・・」
「これ。男は涙を見せぬものでござるぞ」
「ずるいよ右左ちゃん。笠かぶってるから泣いてもわからないじゃん・・・」
「はは。これはエレファントマンの紙袋のようなものでござるよ」
そう言って右左衛門は頭からかぶっていた深編笠をすっと外した。右左衛門の耳は白い毛に包まれて頭のてっぺんにあり、片方はぴーんと立ち、もう片方は途中で折れ曲がっていた。
「う、うさちゃん・・・」
あまりの光景に牛馬郎が言葉を失ったとき、右左衛門がそっと唇を重ねてきた。牛馬郎16歳にしてファーストキスの味は果たして酒臭い麺つゆの味がして若干葱臭かった。
「バイバイバニー!」
精一杯の爽やかな笑顔で右左衛門は牛馬郎にそう別れを告げると踵を返して一陣の風のように走り去っていった。その場に立ち尽くし後ろ姿を見送りながら牛馬郎は「バイバイバニー・・・」と力なく呟いた。翌朝、桜並木から奉行所までの道筋に横たわる辻斬りに遭った屍の上を散った桜の花弁が覆い尽し、さながら死地に赴く右左衛門の花道のようであった。支えを失った牛馬郎は思い出の蕎麦屋に入り浸るようになり、さして強くもないのに酒を呑んで2年ほどぼんやり過ごした。加えて昨今の朝廷の不穏な動きが生きる希望を削ぎ落としていた。

「まだ呑んでるの?いい加減におしよ!」
遣いから帰ってきた若い女中が牛馬郎を嗜めた。
「うるへい!おれぁ、もうどうらっていいんらよ!」
呂律の回らない調子で牛馬郎が口答えをする。
「あんた、その勘定だってお母様の財布からくすねてきてんだろ?情けない」
「うるへいうるへい!おらんちの金どう使おうと、おらんちの勝手じゃいわい」
「あんたがそんなんじゃ、草葉の陰でお父様も泣いてらっしゃるわよ」
「ぐ・・・あんな糞親父の名前出すんじゃねえらによりられ!」
「ねえ、いつまでもそんなんじゃ、誰も嫁に来てくれないわよ?」
「ったらあ、ぶろんべちっけ、嫁とか、てるってんら、ぬけった!」
「あー、はいはい、今日はもうお終いね。ささ、帰って休んで」
「ちょるって、ったら、どるれろばったこ・・・」
「あら。今日は一段と酷いわね。送ってってあげるから少しそこで待ってなさいよ」
「つるぁって、ばーにしゃらって・・・」
覚束ない足取りで蕎麦屋を後にした牛馬郎を脇から支えて歩く若い女中のお菊。何度も歩みを止め、時には道端に嘔吐する牛馬郎を甲斐甲斐しく気遣う彼女は牛馬郎に密やかな恋心を抱いていた。それを牛馬郎も知っていたのだが気付かぬふりをしていた。が、この日は酒の力か箍が外れついぞそのことに触れてしまった。
「なあ、おまえ、おれのこと好きなんだろう」
「ばっ、べ、べつにあんたなんか」
「誤魔化すのはよさねえか。おれもおまえのことが好きだ」
「えっ・・・」
「でもな、おれたちはだめなんだ」
「ええっ!?」
「おまえはな、おれの親父の子なんだよ!」
「うそ・・・うそよ・・・ うそよ!」
「おれたち腹違いの姉弟なんだ・・・」
「それって、何等親なの?夫婦になっちゃだめなの?」
「よくわかんねえけどたぶんだめだ」
「で、でも、ほら、この町を離れれば一緒に暮らしたり・・・」
「おれが酒呑むようになったのはさ、右左ちゃんのせいじゃないんだ」
「・・・」
「おまえがおれの姉ちゃんだって母ちゃんに聞いたから・・・」
「・・・」
「ひでえことするよな、親父も」
会話が途切れたのはちょうど町を流れる一級河川虎乃宮川に架かる橋の袂であった。押し黙った二人の間にゴウゴウと激しく流れる川の音が響いた。刹那「いやーーー」と叫びながらお菊は川へ身を投げた。ドボンと鈍い音と共に水面に水しぶきが上がり、それっきり彼女の姿は見えなくなった。牛馬郎はいつまでも橋から下を見下ろしていた。空が茜色に染まる頃、不自然なくらい急に水面に黒い影が落ちた。ふと見上げると一辺が八尺ほどある三角の形をした黒い蝙蝠のようなものが空を覆っていた。あまりに異様な光景に牛馬郎は慄き尻餅をついた。蝙蝠の一団が町を覆い尽くすとパパパパパとかタタタタタというけたたましい炸裂音が鳴り響いた。連中の正体は朝廷が黒船ペルリと手を組んで差し向けたメリケンくのいち、通称エンジェルたちであった。彼女らは一様に青地に白の縞が入った猿股と赤地に白の星柄の入った駱駝シャツを着ており、三角蝙蝠から地上へと飛来し機関銃で町中の人々を容赦なく殲滅していった。成す術なく倒れる人々を遠巻きに見てとり「逃げろ!」と頭の中で警報が鳴り響くものの恐怖と酩酊で足腰が言うことをきかなかった。くそっ!くそっ!と吐き捨てながらズリズリと橋の向こう側目指して這うようにして進んだ。そのとき視界の果てから黒い水着のようなものを着た侍がこちらに駆けてくるのが見えた。鎖帷子のようなピッタリとしたズボンを履いて黒い競泳水着のようなものを身に纏い、むき出しの二の腕の袖口だけ純白のリストバンドのようなものを付けたその侍は誰あろう右左衛門であった。
「牛ちゃん!ここは拙者に任せろ!もう大丈夫だ」
「右左ちゃん!右左ちゃん!右左しゃん!うさしゃーん!」
そうこうしている間にエンジェルの軍団は真上まで来ており、頭上から機関銃をぶっ放してきた。その弾丸のどれもを右左衛門が両手に持った刀で弾き返した。その刀こそが妖刀ヴァン宝剣であった。舐めるとココアの味がするらしいその刀は千人斬っても刃が欠けることがないと誉れ高い剣であった。黒い蝙蝠を巧みに操り次々とエンジェルたちが飛び降りてくる。近くで見ると誰もが少女であった。夥しい人数の少女たちが一斉に空から降り注いできた。肩口から革のベルトで下げた機関銃を腰のあたりでしっかと持ち銃口をこちらに向けて何か叫んでいる。
「今生の別れが来たようでござる。強く生きよ・・・ であああああああーーー!」
そういい残して右左衛門は少女の一団に突進していった。弾丸を射出する炸裂音と飛び出た弾丸を刀で弾く音が交互に聞こえた後に炸裂音だけが鳴り響き、右左衛門の剣術と稀代の妖刀をもってしても集中砲火を浴びせる機関銃の前には蜂の巣となる他なかった。少女のうちの一人がさっと手を挙げると銃声が鳴り止んだ。まるで牛馬郎などそこに居なかったかのように、少女たちは頭上で旋回していた黒い蝙蝠に飛び乗りまたどこかへ去っていった。牛馬郎は腰が抜けて茫然自失としていたがふと気付くと原型を留めないほど破壊され尽くした右左衛門の亡骸を抱え、白い毛が赤い血で染まった長い耳を撫でているのだった。翌年、仇討ち専用出刃包丁を手にした牛馬郎がペルリ率いる黒船軍団やエンジェルの長であるキャメロンと死闘を繰り広げるのはまた別のお話。

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書ききるってことに意味があると思うんだ。よくわかんないけど。