いつかの誰かの感触を

隣で呂律が回らないほど酔っぱらったおっさんが、このコいいオンナなんだけどおれのこと色気がねえっていうんだよウィック、と申すので、どういうところに色気みたいなのを感じるわけ?と、瞬きするたびにバサッバサッと音がして風が吹くような目元をしたオンナのコに尋ねてみたところ二の腕だと言った。細すぎず太すぎずかといって筋肉ムキムキでも色気がないそうだ。ここぞとばかりにアピールするほどの二の腕は持ち合わせていないので、そんなもんかねえ、じゃあ明日から腕立て伏せでもしてみようかしら、なんて適当に合いの手を入れたところで、おにいさんだったらどういうところに色気を感じるんですか?と聞かれた。しばらく頭の中で言葉を探したのだけど、はっきりと伝わる自信が持てる言葉が見当たらず、とりあえず『湿気』と言ってみた。
それから湿気の正体について延々と説明したものの、まるで見当違いな「貧乏臭いってこと?」みたいな言葉しか寄越さないので「濡れてるってことだよ」と言っておいた。全然違うんだけど。あと、腕の付け根と膝の内側がエロいよね、という話も通じなかったので、君はアナルファックが好きそうな顔をしているけど、朝8時15分ぐらいになるとオナニーとかしそうでもあるよね、と決め付けて喋っていたらすごく露骨に嫌な顔をされた。お喋りってむずかしい。