おまえなんか大嫌いで大好きだ

ようやく『定本 宮本から君へ』を全部読み終えたので、この、喉の奥のほうから湧き出てくる叫び声みたいなものを吐き出したいのだけれども、ヒリヒリするようなこの感触をどう言葉にしたものかと頭で考えてしまうと「言葉にならない」というか、いろんな感情がビュンビュンと高速で飛び交って面倒臭いので一切合財含めて「うおおー」なんて結局雄叫びをあげる他ないというか、とにかくすごい話(漫画)だった。たぶんこれから何度か読み返すことになるとおもう。

定本 宮本から君へ 1

定本 宮本から君へ 1

定本 宮本から君へ 2

定本 宮本から君へ 2

定本 宮本から君へ 3

定本 宮本から君へ 3

定本 宮本から君へ 4

定本 宮本から君へ 4

この話は、宮本という若者の血と汗と涙と鼻水と涎などの体液にまみれた暑苦しいにも程がある青春の1ページ。言ってみれば作り話なわけで「こんな奴いねえよ」の一言で済ませることができそうなのだけど、そうとも言えない奇妙なリアリティがあって、そいつはどこから来ているのかといえば作者の徹底した第三者目線にあると思う。主人公・宮本はこの漫画の中で完全に独立した人格を与えられているというか持ってしまっていて、なんていうか作者が考えて描いたというよりは宮本に生き様を描かされていたというような気さえする。

定本には各巻の冒頭に連載担当編集者と作者との対談が載っているので、それを読むと当時どんな事情で話を展開させていたのかがわかる。最初、女の子と出会う恋愛の話からスタートして次の文房具屋の営業としての仕事の話へと変わっていくあたりの要因とかがおもしろかったし、結果的には良い方向に作用したなあと思った。で、その仕事の話がグッサグサに刺さる。(主に仕事上で)人から期待されるということがどういうことなのか、またそれに応えるということがどういうことなのか、わかっているつもりでも重過ぎて見ないフリをしてるあたりをご丁寧にブチ撒けてくれる。すげーしんどい。けどやっぱそこに向き合える奴は無条件でカッコイイ。

そして話は一人の女性との恋愛の話になるのだけど、最初の女の子との話とは全然違ってもっと生臭い感じの、恋愛なのかこれ?でもこれも恋愛なんだろうな、という流れで進む。しかもヒロイン(2巻の表紙の人)が全然ヒロインしてなくて泣きボクロとかあるし、セックスの描写も生臭いというか女性の積極性がふつうっていうか、なんかもう近所のお姉さんの喘ぎ声が聞こえてきて恥ずかしいみたいな感じで。そして宮本があるシーンで凄いセリフを吐く。

この先 もっと上等な女扱いしてやる 覚えとけ!!

すごい。これ凄い。でもどう凄いのか説明すると1000日ぐらいかかるので割愛する。

仕事も順調、彼女もできて幸せ、というところに絶望が忍び込んできてこれからの宮本がどういう人生を送るのかを示唆するような壁が聳え立つ。結局それもまた宮本らしさ全開で対処していく。こいつは一生こうやって生きていくんだなと思った。その後、ドラマや映画なんかでは都合よく省かれているこれまた生臭いシーンが淡々と進行していく。おそらくこのへんはもっと描こうと思えばどこまでも語れるという気がしたけれど、スケジュールの都合で多少急いで話を進めたそうだ。そしてラストへ。漫画は終わるけれども宮本という若者は相変わらずの暑苦しいおっさんになって今もどこかで鼻水を垂らして泣いて生きているような気がするようなエンディング。併録されている描き下ろし続編の中に宮本自身は胸部しか出てこないのだけど、着ているTシャツに「不倒不屈*1」と書いてあって、暑苦しさが増しているぐらい「らしいな」と思った。

あと、ichinicsさんの日記(http://d.hatena.ne.jp/ichinics/20060108/p2)読んだときに僕はどんな曲を重ねるかなあと、割りとそれを楽しみに読んだのだけど同じサンボマスターなら『欲望ロック』が宮本っぽいと思った。製作委員会的にはエレファントカシマシの楽曲の中から選ぶんだろうけど。

*1:正確な四字熟語は「不撓不屈」らしい