カドガタツ

あまりにも睡眠不足でフルスロットルにしてもさして冴えない頭がいよいよ鈍重になって物事を感情でしか判断できなくなってきていたので早めに寝ようと思って22時にベッドに入ってみたものの、答えのない堂々巡りのような思考の澱みに足元を掬われてなかなか深く沈んでいくような眠りに落ちることができなかった。昼間から鉛のような眠気に包まれているし窓を開ければ涼しい風も入ってきて絶好の泥化コンディションにも関らずベッドの上で身体を捩って冷たいところを探しているうちに無為に時間だけが過ぎていってしまう。いっぺん仕切りなおそうと思ってヨレヨレの寝巻きTシャツから普段着るTシャツに着替え短パンを履いて、最寄のコンビニまで歩いて行って飲み物を買うつもりで財布と煙草をポケットに入れて表に出た。
ちょっと肌寒いぐらい涼しくてジーンズを履いてくればよかったかなと思ったけれど引き返す気も起きなくてそのまま夜道をぽちぽちと歩いた。頭上には月が見当たらず赤っぽいのや白っぽいのや大きいやつ小さいやつと星がたくさん見えた。いま思い悩んでいることは「まるくおさめる」ということだった。力任せではなく。たくさんの星が夜空で好き勝手に光っているような枠組みを作るというか、能動的に輪の中へ入るような魅力を見せるというか、できれば波風も角も立てたくはない。それを考えると顔のない大勢の声が頭の中で木霊してよくわからなくなる。
あ、と思う。たぶん引き入れようとしている枠の半径が小さいのだと。だから角が立つんだ。真っ直ぐに見えるぐらいの緩いカーブだったら角が立たなくて丸く収まるじゃないか、と。
コンビニまで行くつもりだったけれど、触れた感覚を忘れてしまわないうちにベッドに入りたくなった。些細な満足感の中で眠りたかった。無理して飲み物なんか買わなくてもいいのだけどコンビニより手前にある深夜営業のスーパーへ入った。店内はガランとしていて無駄に明るくて怠惰な歌謡曲の主旋律をサックスの音色にしたインストゥルメンタルのようなBGMが流れていた。冷蔵ケースのところで炭酸水を手に取り、レジへ向かう途中で会社のインスタントコーヒーを切らしていることを思い出してコーナーへ行くとちょうどパートの女性が屈んで商品を並べたりしてた。すみませんと言って詰め替えパックを取ったとき、振り返ったパートの女性がなにか物凄く汚いものを見るような顔をした。そんなに怒ることでもないだろう。言い分は向こうにもあるのだろうけど「どけ」と言ったわけでもないし、角が立つような振る舞いでもないだろう。どうしてこんなことになるんだ。穏やかな心持ちでぐっすり眠りたいのに逆に嫌な気分になるなんて。


レジで財布をポケットから出すときに短パンのチャックが全開になってるのに気付いた。
しかもパンツ(トランクス)がちょっと折れ曲がってはみ出てた。まるで角のように。