なにをするわけでもないのだけれど

土曜日。一年間ぐらい関っていた地域住民のための仕事が終わり、完成を祝う宴会に呼ばれたので行ってきた。大仰に言えば式典の類になるのだけど、まあなんつうか、地域に住むおっさんおばさんが寄り集まって挨拶をして酒を飲む会だった。ひとかたならぬご尽力を賜り、とかなんとかホメ殺しをされたりした後にいよいよ酒宴が始まり、本来なら酌をして関係各位に感謝の意でも述べるところだったのだけれども、それぞれがそれぞれに隣り合う文字通りの隣人たちと楽しげに談笑していたので、間に割って入るのも野暮ったいなと思って自席で大人しく、冷めた玉子焼きなんかを突付いて時間が過ぎるのをぼんやりと待っていた。

それでも時間の流れは緩やかすぎて暇を持て余してしまい、酌をしに回ってくる人たちに愛想笑いを返すのにも疲れてきたので煙草を吸いに外に出た。やっとこの仕事も終わったなあと漏れ聞こえてくる笑い声に耳を傾けながら白い煙を吐いていると、おっさん二人が煙草を吸いに出てきた。景気はどうだい?というような話をして煙草を吸い終えると中から大きな拍手が聞こえてきた。もう閉式の挨拶なのかと慌てて席に戻ると、出席者の一人が秋田の民謡?かなんかの唄(ハァー、なんとかかんとかホイホイ!みたいなやつ)を赤ら顔で唄い始めた。続いて祝詞を上げるおっさんや小噺をするおばさんが前に出ては引っ込み、いかにも宴会らしい雰囲気で住民たちによる住民たちの楽しげな時間が過ぎていった。僕の仕事は成功した。

幾人かの持ちネタ披露がなされていったあたりで「あなたもなんかやってくれ」と酔った幹事に言われたのだけど、生憎そういった『芸』を持ち合わせていないので丁重にお断りした。その一言だって社交辞令であって放っておいても次々とおっさんおばさんは宴会芸を繰り広げていく。だたそうして声を掛けられたときに、頬かむりをして安来節でも踊ったなら一躍英雄扱いされるだろうなと思った。英雄扱いはないにしても彼らとの共通言語としてそういった『芸』の一つでも仕込んでおくのも悪くないなと思った。面倒臭いけど。

最後に!と言って大合唱するおっさんらの歌声をどこか遠くで聞きながら、暮れの忘年会でイケイケのおじさんと喋っていたときに「俺も若い頃は必死で敵も作ったけど、年食ってから人が寄って来ない人生なんて寂しいもんだぞ」と言ってたのを思い出した。