中折れ男と腋毛女 第四話

杉本は肉でも魚でも野菜でもデブでもブスでも食べられる雑食であることは知っていたのだが、林田の食の嗜好が究極寄りなのか至高寄りなのか知る由もないので素直に、食べられないものはあるか、と尋ねたところなんでも食べられると言うので、くほほ、雌豚めが、と目の奥を鈍く光らせつつ懐中電灯片手に山へ分け入り木の根元に生えている茸を取って鍋にして食べさせたらその大半が紅天狗茸であったので二人共激しく痙攣した後、虹色の幻覚に包まれながら酷い下痢と嘔吐を撒き散らしてその場に崩れ落ちた。俺は二人から財布を抜き取ると新大久保のコロンビア人たちに連絡を取り、楊偉民に復讐を果たすために横浜へと飛んだ。
ということもなく、以前杉本がやってきたときに訪れた牛や豚の内蔵を焼いて食べさせる店の向かいに新規開店した同店の姉妹店に行った。なにしろ随分と時間が経っている話であるので記憶が曖昧であり、ここで何を注文したかすらすら言えるようであれば、幼い頃にテレビ番組に出演して東海道線の駅名なんかを端から念仏を唱えるような調子で発表した経歴があって然るべきであり、家から小銭をくすねて駄菓子を買って食ったり籤引きで当たった銀玉鉄砲を手に墓場で遊ぶような洟垂れ小僧であったので、この夜に何を食ったのか覚えてない。ただ、臓物屋であるので臓物を串に刺して焼いたようなものを食ったことは間違いなく、プッタネスカとかクィティアオペットヤーンとかサーターアンダギーの類は食ってないはずだ。臓物をぐにぐにと奥歯で噛みながら、林田の恋愛遍歴を話を聞いた。世の中には"引き"の悪い人間とそうでない人間の二種類しか存在しないとしたら彼女は正に前者であろう。そして、彼女の傍らで薄ら笑いを浮かべて話を聞いている杉本は果たして彼女にとって"当たり"なのかどうかといえば首を傾げたくなるのは否めないが、僕にできることといえば杉本が当たりでありますようにと天に向かって祈ることぐらいしかないのだが、食べ残して少し冷めた臓物がなかなか噛み切れないので祈るのはさておき奥歯でぐにぐにやるのに手一杯であった。はいはい、幸あれ幸あれ。
杉本から疲れてるだろうから早めに案内役から解放して帰宅させてあげる、というようなことを言われたので、それは遠回しに早いところ二人きりになってちゅうちゅうしたいと言っているのではないかと直截に問い質したところそうではないと言うので臓物屋を後にして次の店へと向かった。本来ならば、というかおっさん二人であるならば女給が接待してくれるような飲食店に赴くところであり、無類の片言好きである杉本と連れ立っておるので比律賓国あたりの女給がラシャイマセー(マにアクセント)と歓待してくれるような店に行かねば許されないところであるのだが、この夜は林田もいることなので西班牙料理を食べさせる店に行くことにした。まあ、比律賓国の女給が隣に座るような店であっても林田の容姿であれば枝に紛れる七節が如く馴染むであろうなと以前に杉本が言っていた。ついでに働かせて小遣いでも貰おうかとも言っていた。やはり彼は"当たり"とは言えないのではないだろうか、そんなことを考えながら歩いた。