中折れ男と腋毛女 第三話
一先ず茶ァでも飲んで一服こましたろ、きひひ。と何故か無理矢理な関西弁で思った。再び二人を自動車に乗せ、犬畜生などが店内へ連れ込める喫茶店へ行った。生唾を飲み込みながら二人の様子を窺っておったのだが、わあ、お洒落やん!とか、すごい、素敵だよ!という目ぼしい反応もなく、むしろ店の造りに関する反応は薄かったように思う。途切れ途切れに訪れる静寂の間に店主の飼い犬であるチワワがきゃいんきゃいんと嘶いて会話の盛り上がらなさを一層強調するのだった。居た堪れなくなり愛想をして店を出た。その後、杉本がいざ復讐を果たさんといやに張り切るので十柱戯場へと向かった。
十柱戯場に着き栗毛色の髪の受付嬢に遊戯の申し込みをすると、なにやら競技会の予約があるとかで一度は遊戯を断られたのだが、そういうことなら他所へ行くので一向に構わない旨を吐き捨てるように告げ、用を足して戻ると栗毛色に呼び止められ遊戯できることとなった申し出を受け、紆余曲折を経て全国地区別対抗十柱戯選手権が隅の方で執り行われることと相成った。前回杉本と対決してから二度程十柱戯に興じる機会がありそこでこの競技における真髄を発見した。球である。貸し球には様々な重量の物が取り揃えられてあるのだが、同じ重さの球でも指を入れる穴の大きさがそれぞれ違うのだ。まるで同じ身体つきでも穴の具合が緩かったりきつかったりするのと同じだ。腕や手首への負担を鑑みて軽い球を選んでも指の関節をこきぽきと鳴らす癖がある為、細い穴の球では指が奥まで入らず必要以上に握力を使わなければならない。競技が佳境に差し掛かる頃、投げる前に球を真下に落とす失敗はこれのせいであった。が、今ではお座成りであった球選びにじっくり時間を掛けるよう腐心し、じゅぽじゅぽと穴に指を出し入れして吟味するのであり、いつも深爪気味なので安心だ。
開眼した僕に対して杉本如き盆暗では地力に差がありすぎて端から足許にも及ばず、余裕綽々の二連勝(完膚なきまで叩きのめす)であった。仮に百回やっても壱萬回やっても敗れる気配すら微塵も感じなかった。うぬではこの俺を馬上から引きずり降ろすことすらできぬわ!ふははは!どーん!といったテイであった。触れるのも忍びないのだが林田に至っては十数年の空白期間があるということで成績云々はこの際度外視する腹積もりでいたのだが、球を溝に投げ入れてばかりで十柱戯とはなにかそういうボブスレー的な競技であったかと思い始めてしまう程の凄惨な成績であった。そうこうしているうちに時間も晩飯に調度良い頃合となったので高笑いで十柱戯場を後にした。外では我が大勝利を祝うかのように近くにある神社の御祭りの神輿が出ていた。しかし、杉本も林田も大敗したにも関らず大して悔しくなさそうなので、いまいち、こう、蹂躙した感じ?叩き潰した感じ?みたいなのが無く、髷を獲られた落ち武者同士和気藹々というか、むしろそれ新しいよね!、そう?結構気に入ってるんだ!、負かしてくれてありがとうだね!、つうかあいつ大人気ないよね!、ねー!、そういえばおまえんち田植え済んだ?、あーまだなんだよね、と河童みたいな風体で無邪気に会話しているのを、生首担いで傍で聞いている敵兵のような釈然としない気分であった。