サースティー

でっかい砂漠の真ん中でカラカラに干上がりながら井戸を掘っていると、陽炎の向こうから水が入ったポリタンクを背負った誰かがラクダに乗ってやってきてこう言った。

ここをずっと行ったところにあるというオアシスに向かって旅をしているところなんだけど、よかったらこのラクダの背中に乗せて行ってあげるよ?

ありがとう。でもおれはラクダに乗って旅をすることなんかできないんだ。その水を一口飲ませてくれるだけでいいんだよ。そうしたらおれはここに水が出るまで井戸を掘り続けられるんだ。

とはいえ、その水はきっと誰かのための貴重な水なのだろう。おれに分け与えてしまったら別の誰かが彼干上がってしまったり、あんたの旅に必要な水だったりするのだろうね。だからやっぱりおれはその水を飲むわけにはいかないんだと思い込んでせっかくの申し出を断り、カラカラに干からびながら井戸を掘る。やがて溢れ出る水の幻に包まれて朽ち果てるのだ。
さようなら優しいひと。ボン・ボヤージュ。