夏のおわりの戦慄日記

会社の帰り道。いつもの坂道を上っていたら丘の向こうから色とりどりの閃光が空に映り炸裂音がこだましていた。坂を上り切ったところまで来ると、どこかの神社かなにかのお祭りで花火を打上げているのがよく見えた。夕涼みがてらに猿股姿で空を見上げているおじいさんがいて、花が開くたびに深く皺の刻まれたその顔や白い半袖の肌着が赤や黄色や緑の光に照らされていた。おじいさんの傍を通り過ぎるときに表情を窺うと、さして楽しそうでもなくただ遠くをぼんやり眺めているだけだった。遠く、というのは距離もそうだけど時間としても遠く、昔の出来事なんかを見ているような目だった。ひょっとしたらおじいさんはドンドーンと火薬が爆発する音を聞いて、戦火の真っ只中で聞いた大砲の音と重ねていたかもしれない。低い位置で連続して打ち上がる小さな花火のバババババという音は機関銃の音に聞こえていたかもしれない。そんなことを思っていたら薄暗くなってきた空を主翼のライトを点滅させて飛ぶあの旅客機がB29爆撃機だった時代があったのだなと戦慄した。戦争って一体なんだったんですか?おじいさん、みたいなことを考えながら家に帰って飯を食い風呂に入ったとき、鏡を見たら両腕の付け根から乳首の少し下のあたりまで肉が付いて膨らんでいて、ちょっとしたパイオツ的なナニカにようになっていた。ふと帰り道で頭に浮かんだB29爆撃機のことを思い出して、もうちょっと肉が付いたら92(B)になるな・・・と戦慄した。