この街から

昨日の続き。あれこれが一段落したら銀行の支店長のところへ挨拶に行った。そこで言われたのは『これからはあなたが会社を経営してゆくのだから企業理念を定めなさい』ということだった。こんな田舎のちっぽけな会社を企業と呼んだり仕事をやってゆくことを経営と呼ぶことに対して大げさだなという照れのような抵抗があったのだけど『企業理念という軸があればなにをすべきかなにが間違ってるのかわかるから』と言われた。ひと月もしない間に「変えてゆくもの/残してゆくもの」で悩むことが多くありどうやら企業理念っていうのは決めたほうがいいなということを実感した。それからは少なく見積もっても月イチで支店長のところへ行き「ぼくのかんがえたきぎょうりねん」を発表したのだけどその都度「それは戦略だよ」とか「それは現象だね」などとダメ出しをされた。支店長の言う企業理念というのは

『明日世界が滅びたとしても今日、会社が社会に対してやらなきゃならないこと』

なのだそうだ。明日くたばっちまうのなら何をしても無駄な気がしないでもないし、昨日書いたように僕はすでに二度目の人生においてもこの会社をやると決めてしまったので、その言葉を聞いたときになんだか無間地獄に堕ちていくような気分になった。

それからというもの会社経営者に会うときにはできるだけ企業理念について尋ねたりした。まるで夏休みの自由研究のテーマが決められない子供のように。漠然とはしていたものの何もなかったわけではなくてただこうモヤモヤとしたものを表現する言葉が見つからなくて時間がどんどん過ぎていった。そしてあるとき不意に、核になる、こうやって社会とコミットしていくのだ!という言葉を見つけた。エレファントカシマシ宮本浩次が自身を『歌の係り』と呼ぶような僕の係りを見つけた。宴会の席で久しぶりに顔を合わせた元支店長現本部部長さんに「やっと言葉にできましたよ」とまんをじして言ったところ、彼はなんだか納得したんだかしてないんだか複雑な顔をして「まだ不完全なものだけど道は決まったようだからそれでやればいい」という及第点をつけてくれた。もしその時にダメを出されても係りは変えなかったと思う。

僕は『ロマンチック』の係りになったのだ。おまえらうっとりしやがれ。