キミにアスピリンと烏賊納豆のボク

「ねえ、奥さんが太ってるの知ってて『細君』って呼んだらやっぱり厭味かしら?」
パルバティは頬杖をついてアンニュイな雰囲気を意図的に作りテーブルの上のほうれん草のフィットチーネ(エビクリームソースがけ)をくるくるフォークで巻き取りながら鼻にかけた甘ったるい声で向かいの席に座る、今まさにたっぷりとわさびを利かせた特大の鉄火巻きをどこかしら猥雑に見える様相でひとくちに咥え込もうとしている令嬢然としたそれでいて実のところスラム生まれで整形マニアのシンディ(元高級コールガール)に聞いてみたのだが、恍惚の表情を浮かべて頬張る彼女の目には、幼い頃に東海道線の駅名を東京から大阪まで暗記して誰彼構わず言って聞かせていたせいで思春期の頃に酷いイジメを受けたものの、父の転勤に伴い転校した先では暗い過去を忘れるほど女学生から好意を寄せられ自らの優れた容姿に気付いて以来、寡黙な美少年であり続けるようになったエスプレッソを運んでいるアルバイトの重成君の引き締まった小さい尻しか映っておらず、パルバティの声は隣の席で携帯電話に向かって怒鳴りながら鼻クソを豪快に穿っている不動産デベロッパーの課長代理、柳生彦左衛門(妻子と別居中)の指の入っていない鼻腔奥深くへと吸い込まれていったのであった。その頃、裏口付近では黒尽くめの男達が怪しい取引をしていたのだが鯉のぼりがはためいて河童が踊りだす。