合気道場はじめました

会社の空き部屋を使って新しい商売を始めることにしたのだが合鍵屋は失敗であった。忽ちのうちにマッチポンプが露見し悪い噂が流れて客が寄り付かなくなってしまった。再び黄色い表紙の職業別電話帳で世間にはどんな商売があるのか調べてみたら二番目に『合気道場』とあったのでこれも何かの縁かと思い早速合気道場を始めてみる。
あまり人に自慢する話ではないのだが幼少の頃に柔道を習ったことがある。身体が小さく喧嘩のときに分が悪かったので小さい奴が大きい奴を投げ飛ばす柔道というものに憧れ小学校1年生のときにその門を叩いた。初日、真っ白な柔道着に身を包んで期待に胸を膨らませて練習場に行くと厳つい指導員がやってきてまずは腕立て伏せと腹筋をやれというので渋々これに従ったのだが練習時間の全てをその苦行に費やされたので次の練習日からは行かないことにして蛙の口に爆竹を突っ込んだりして遊んだ。短く儚い柔の道であった。

そんなわけで武道の世界というのは脳味噌まで筋肉で出来ているような連中が跳梁跋扈しており一歩その道に踏み込めば即刻苦行を強いられるというトラウマがあるので師範代的な社員を雇おうものなら体力作りと称して空気椅子で仕事をさせらりたりするかもしれないから恐ろしい。まして銘木の板に墨書きで『無免許流合気道塾』などとした看板を掲げようものなら山賊のような格好の如何にもならず者といった猛者どもが道場破りに現れ「たのもう!」とか叫んで頼んでいる割には不遜な態度で上がりこみ、稽古だなんだと因果を含めて金属バットやビール瓶で暴行してくるらしいではないか。かと思えば覚醒剤の類を嗜む輩まで押入ってくるらしい。

阿鼻叫喚の地獄絵図を想像して小便を少々漏らしつつ『合気道』について恐る恐るWikipediaで調べたところ『自然との和合、世界平和などを主な理念とする』とあったのですっかり安心しきって脱糞してしまった。尻を拭きながら看板は『ぁぃきどぅぢょ♪』とかそういうチャーミングな感じにしようと思った。さらに調べを進めると「二人一組の形稽古中心」とか「護身術」とかいう文字が目に飛び込んできた。これはもうM専痴漢撃退プレイのイメクラ、客が女の子に触ろうとすると投げ飛ばされて身悶えするという変態合気道塾にするべきだと思った。そして件の道場破りが現れでもしたら平和の精神でもって看板を譲ればいいのだ。「これは樹齢150年の欅の板ですから30万円でお譲りしますよ」と。おほほ、世の中チョロいもんだ。