ワシの目が黒いうちは日記

予告通りというか予定通りに葬式に行ってきた。
東京で食い詰めて「蛍、お兄ちゃんもう東京は卒業だ」みたいな感じで都落ち同然に田舎に引き返してきた頃、そんなテイタラクなくせに都会っ子気取りで仕事をしてて、なんつうかな、今の自分が見たら即座に殴り倒すだろうなっていう生意気さと軽さで田舎を見下していたんだよね。当時、今日の喪主さんの関係の仕事をしてて、打合せだとかそういうときにいつもニコニコ接してくれてたものだから輪をかけて調子こいてて。そんであともうちょいで契約みたいなところに突然おじいさんが登場するわけ。今日の遺影の方。
事情を一通り説明したんだけど、なんだかおじいさんは不機嫌で「そんなの聞いとらん」てゴネ始めて。え?とか思っているうちに「ワシの目が黒いうちは勝手な真似はさせんぞ」って言われて。本とか漫画とかテレビなんかじゃそういうセリフ聞いたことあったけど、実際に「ワシの目が」っていうのは初めて聞いたよ。っていうかあれ以来聞いたことがない。
随分前のことで、その後その話はいろいろグチャグチャしてしまって結局当時の計画は全面的に見直されることになって、おじいさんが亡くなってしまったからといってどうなることもないのだけど、ただあのときの「ワシの目が」っていうのは相当インパクトがあって、仕事を進める上で窓口以外の周りの人間にも配慮しないとダメなんだって、この街にはむずかしい年寄りが多く潜んでいるんだってことを教わった言葉だったなあ、とかなんとかそんなような苦い過去を含めてあれこれ思い出しつつ焼香してきた。そんで可憐な喪服美人はいなかった。