やさしい記憶
どう? 食べ放題にしてはおいしいと思わない? でしょ? いやー、初めてのデートで焼肉屋はどうかと思ったけど気に入ってくれたみたいでよかったー。
そ・れ・に・しても食ったよねー。いやー食った食った。こんなに食ったのは久しぶりかもしんない。あーもー、おっぱい。じゃなくて、おなかいっぱい! あ、あ、誤解しないで! 違うからね、ぜんっぜん違うっていうか何もかもが違うっていうか、そんなんじゃなくってあのね、聞いてよ。「あー、今日はたくさん食べておなかいっぱいだなー」って思ったらね、あれ? もしかして「おなかいっぱい」を略したら「おっぱい」になるんじゃないの? ってひらめいたわけ。つっても言葉にするつもりなんて全然なかったんだよ、なかったんだけど出ちゃったの、ついポロリと出ちゃったの。おっぱいだけに。
いやいやいや、いやらしい意味とかじゃなくってほら、赤ちゃんが、んぐんぐんぐって母乳を吸うでしょ? で、満足したら、ぷはーって離すでしょ? そしたらお母さんが聞くじゃない。「おなかいっぱい?」って。その問いかけがね、赤ちゃんには「おっぱい」って聞こえてるんじゃないかなーって。それでね、その「おっぱい」っていうやさしーい響きと、満たされた感じと、あと、乳房の形とやわらかい感触がぜーんぶ、赤ちゃんを包むやさしい記憶ぜーんぶがひとつになって、長いながーい、ながーい時間をかけて、何度も何度もなぞるような感じでDNAに書き込まれて来たんじゃないかなー、なんて僕は考えてるんだけど。だ・か・ら・ね、おなかいっぱいのときに「おっぱい」って言うのはごくごく自然なことなんだよ。むしろ本能っていうか。だからなーんにも恥ずかしいことじゃないんだよ。ね、そう思わない? 思う? 思うならちょっとためしに言ってみて。え? 恥ずかしい? 言いたくない? ていうか思わないって? うーん、そっかー残念。
じゃあさ、おっぱいってさ、幸せの源だなーって思わない? だって、生まれてきた命をぐんぐん育てるし、触ったらやわらかいし、見たら興奮するし、「おっぱい」って口にすればワクワクするし、パフパフってすればすごく楽しいし。だからね、すごく恐ろしい話だけど、もし、もしだよ、この世におっぱいが無かったとしたらどうする? だよね、こんな世界やってられないよね。もうね、おっぱいが無いってだけで、すごくギスギスした感じになるだろうし、あっという間に世界は滅びちゃうよね。そう考えるとさ、おっぱいってすごいよねー、すごくすごいよねー、人類を幸せにするよねー。平和の象徴は鳩じゃなくて絶対おっぱいだよねー。
あ、あ、見て、ほらほら見て、デザートだ、デザートが来たよ。おっぱいアイスだよ。モーモーさんのおっぱいアイスクリームだよ。おいしそー。あれどうしたの? 食べないの? 早くしないと溶けちゃうよ。え? なに? もうおっぱいの話はしないで? あーーーーごめんねごめんねごめんね! ホントもうおっぱいの話はしないし、これからはキチンと目を見て話すようにするから!おっぱいのほうは見ないように頑張るから! ね、だからお願い、胸元の腕を解いてよ、食べよ食べよ、あれ? え? 帰っちゃうの? アイスクリームは? ちょっと待って待って待ってってばー!
……あーもー、おっぱい!!!(泣)