日曜妄想劇場

日曜の夜まで働くのはずいぶん久しぶりだ。雪が融けて川になって流れるように細かい仕事が大挙して押し寄せてきている。そんな華のない仕事なんてお断りですよと言えるような身分ではないから、有難く仕事を頂戴しているのだけども、来る日も来る日も送りバントのような仕事をしていると鬱憤も溜まってくる。なんか軽めのBGMでもと思いEARTH・WIND&FIREをかけてみた。あの名前ってアース&ウィンド・ファイアだったか、アース&ウィンド&ファイアだったかよくわからなくなる。さておき仕事の邪魔にならないくらいのボリュームでブギワンダーラーンでチマチマ仕事をしてたら、なんか、ここに同僚女子的な人がいたらこんな日記なんて書いてないでもっと頑張れるのにとか言い訳がましいことを思った。野郎は供給過多なのでいらない。
字面の通り自慢じゃないが僕はこれまで大きい会社というか従業員がいっぱいいるような会社で働いたことがない。だから想像してしまう。ここが大きな会社のオフィスかなんかで僕のほかにもちらほら働いてる人がいて、中には女の子もいて、その子がカタカタとキーボードを打つ音と小さく鳴らしてるアースなんとかが聞こえてて、でかいガラス窓の向こうに高層ビルの屋上で赤いランプが明滅するのが見えて。そんでメガネくんとかが仕事を済ませて疲れた声でおつかれーとか挨拶して帰りがけにパチっと照明を消すと、まるで僕のところとその子のところだけにスポットライトが当たってるような具合で、部屋が暗くなって仕事すんのが嫌な気分に拍車がかかるんだけど納期があるから惰性でどうにかやってて、それにその子一人ぼっちじゃ寂しいだろうとか会話もねえくせに余計なお世話で、関係ねえかって仕事に見切りをつけようとしたその瞬間にその子は僕のデスクの近くにあるコピー機のところに来てコピーとってて、ガーピー鳴る機械の音に混じって「ふう」とかため息なんか聞こえたりして。「どうですか、終わりそうですか」なんて当たり障りのないところから話しかけてみたら「え?あ、はい。あとちょっと」とか驚きながら返事があって。その微妙にくたびれた笑顔がなんともかんともで。コピーが済む前にって少し焦りながら「終わったらなんか食べていきませんか」って至って平静を装いながら脇の下に嫌な汗を掻きながら言ってみたりして。「え?あ、うん、でも」とかなんとかはっきりしないリアクションで。「あ、疲れてるよね、ごめん」とかなんとか急にタメ口で謝ったりなんかすると「あ、いえ、そういうんじゃなくて」とか言って。次の言葉を待ってる間がやたら長くてもうなんか気を失いそうだよお母さんとか思い始めた頃に「今日わたしあまりお金持ってないから」とか思いもしない方向の理由を述べられた瞬間にほっとして体温が2度ぐらい上がってまた汗掻いて「あー、大丈夫。安いところなら僕払いますよ」とかなんとか財布の中身も確かめずに格好つけるんだけど、借りを作るの嫌がるかも、しくったとか言い終わってから思ったりなんかして。案の定微妙な顔をしてるのを見てすぐ「また今度返してくれたらいいですよ」と精一杯のフォローで。「あ、じゃあ」って瀬戸際で了解を取り付けた後に、あとどれくらいかかるとかそんな話をしてもっかい仕事がんばるどってPCに向かうと、ちょうど宇宙のファンタジーかなんかがかかってるっていうね。

どこにそんな余力が残ってたんだっていうくらいバキバキ音を立てて仕事を進めて、その子が終わると言ってた時間まであと少しというところでその子の携帯が鳴り、ほどなくして僕のところへやってきて「ごめんなさい。ちょっとお母さんに用事を頼まれちゃって帰らないといけないんです」とか言われて、「あ、あ、あっそう。うん。じゃあ、またこんど」とか気絶しそうになりながら声を絞り出してまたPCに向かって。少ししたら女の子は席を立って「それじゃあ、お先に失礼します」とか割と上機嫌な声で挨拶をして去っていって、ポツンと残された僕は、あの子のお母さんにはきっとちんこが付いているんだろうなと気付くのだった。なんてファンタジー。仕事がんばろう。