café au lait

仕事じゃないほうの打合せに出掛けたところ約束していたおっさんからキャンセルの連絡が入り、集合場所だったタイ料理店に独り取り残されてしまった。集合時間が遅かったから夕飯は済ませてしまっていて飯を食うわけにもいかず、かといってそのまま立ち去るのもカウンターの向こう側で悲しい顔をしているタイ人のブンさん(♂・調理担当・ムエタイ使い・同性愛者(噂)・年齢不詳・いつもバンダナを頭に巻いてる・まれに虎のような目つきになる)に忍びなく、なにか温かいものでも飲んでいくことにしてメニューをパラパラと捲ってみた。
カフェオレ?タイ料理屋なのにカフェオレ?おニャン子クラブなら山本スーザン久美子のような佇まいのカフェオレという文字列に目を奪われブンさんに注文すると「アッタカイ?ツメタイ?」というので「温かいほうで」と返事をした。ブンさんは戸棚からガラスのカップを取り出すと身をかがめて足元から何かを取り出した。UCCのペットボトル(1L)入り珈琲だった。ボトルのキャップを開けてカップの半分まで注ぎ、冷蔵庫から牛乳のパックを取り出してまたカップの中へ注ぐとカップを持って奥へ消えていった。1,2分したところで「チンッ」という音がして薄茶色の液体が入ったカップを持ったブンさんが現れた。目の前にコトリとカップが置かれ「コレ、アマイ」とパック入りのガムシロを差し出された。一口飲んでみるとヌルかった。そんでガムシロを入れなくても充分に甘かった。ふと顔を上げると悲しい顔(に見えるだけ)で笑うブンさんがいた。
外は雪が降り始めていたので「タイは雪降ったりしないんでしょ?」と聞くと「ハイ。雪ガ降ッタラ皆死ヌネ」と言っていた。「そっか死んじゃうのか」と言うと「ハイ。死ヌネ」と返事をしてまた悲しい顔(はしてないんだけどそう見える)で笑っていた。ヌルい珈琲牛乳を飲み干して会計を頼むとメニューには400円とあったのだけど「サンビャクゴジュエンデス」と言われた。「ブンさん400円だよ」と言って400円払い「温かくして寝なよ死んじゃうから」と言うと「アリガトウゴザイマス。死ナナイヨウニネ」と返事をしたブンさんは割と普通の笑顔だった。