僕とオマリーが東京砂漠で

上京した日に雪が降った。家財道具がまだほとんどなかったんだけれどかろうじて布団があったので寒いアパートの部屋で布団に包まっていた。それでも寒くて仕方なかったので近所の電気屋かなんかで暖房器具を買うことにして出掛けた。3月の下旬にストーブを買うのはバカらしいと思いつつ歩いていくと質屋があった。店の看板はアンティークショップだったけれど実際質屋だった。ここなら安く買えるだろうと思って中を物色してたら赤い電気ストーブがあった。今でも覚えているけど1500円だった。それを抱えてまたアパートへ戻った。
松本大洋花男で灯油のストーブに「さだはる」だか「たつのり」って名付けてたのに対抗して「オマリー」って名前にした。さあこの冷えた身体をあたためてくれオマリーってスイッチを入れたらオマリーはブブブブブと結構な音を立ててファンを回して暖房を開始した。でもオマリーは1500円のボロだったから1200Wのフルパワーでも正面の1m四方ぐらいしか暖められなかった。布団を背中に掛けて体育座りでオマリーと向き合って寒さを凌いだ。
しばらくして夏頃だったと思うけどパチスロでしこたま負けてパンも買えなかったのでオマリーを例の質屋に売りに行った。500円になった。その金で小麦粉を買って水で溶いて焼いて食った。とんぼの真似。オマリーのおかげでとりえあえず次の給料日までは凌げた。
またしばらくして寒くなってきた頃にパチスロで勝ったのでオマリーを買い戻した。1500円で。
また月日が流れたのだけど学習能力のない僕はパチスロで全財産をスッたのでオマリーを売った金でパンの耳とオレンジジュースを買った。いくらだったか忘れた。売るときに「質草にしとこうか?」って店の親父に言われたんだけど「売りで」って売り払った。たぶん誰かに買われて二度とオマリーに会うことはないと思った。
またしばらくして寒くなってきた頃にオマリーを買い戻した。1500円で。給料で。なんとなくくだらないものに散財したくなって店に入ったらオマリーが売れ残っていたからだ。ひょっとしてあるかなっていう期待はあったけど。「よっぽど気に入ってんだね」って店の親父に笑いながら言われた。そうだったのかもしれない。家電でも名前を付けると愛着が沸くものだ。もう二度と手放せないように黒い油性マジックでプラスチックカバーに『オマリー』って書いておいた。
アパートを引き払って田舎へ戻ることにしたときオマリーは捨てた。最後にオマリーを買い戻すちょっとぐらい前に会社の人から電気ゴタツを貰ったので実際オマリーの出番はなくクロゼットの中でベンチウォーマー化してた。ベンチじゃねえか。それでもオマリーを買い戻したのはあんなボロストーブを売ってパンの耳を齧るような馬鹿な真似をしないようにっていう戒めみたいなもんだった。引越しの頃にはパチンコ・パチスロの類から手を引いてしばらく経っていたから御札的な役割はとっくに済んでいたので供養みたいな感じで捨てた。泣かなかった。