男らしい日記

この街中が黒ネクタイのおやじたちで埋め尽くされている。新盆見舞いというやつだ。多分に漏れずそんなおやじ達の一員となり黒いネクタイを締めて新盆見舞いに出掛けた。移動手段であるところの車のエアコンがアテにならないので上着は着ない。エアコンの効いたセダンを運転しているおやじ達は上着を着ているが、過酷さでいうとこちらが上であるから実に男らしい所業と言えるだろう。ちなみに半袖のワイシャツを持っていないので長袖のワイシャツを着て出掛けたのだが、シャツの下にTシャツとか肌着とかを着ない派なのでうっかりするとサッカースペイン代表元監督であるホセ・アントニオ・カマーチョのように脇下の汗染みが目立ってしまう。だが、そうなりゃそうなったで涼しい顔をするのが男らしさだ。制汗デオドラントをシューシューするような軟弱者には真似できまい。でもあれ気持ちいいよね。シューシューしたい。
そんで一通り挨拶を済ませたところで腹が減ったのでラーメンを食うことにした。襟元を緩めて喪服姿のまま入店するとなんだか『縁起でもない』という視線を感じたが男らしいのでそんなの無視。カウンター席に掛けて「塩ラーメン」とだけおばさんに言う。無駄口を叩かないところが男らしい。仕切りを挟んだ向こう側にいる男二人組みがなんかラーメンのうんちくを語っていたが、ラーメンっていうのは語るもんじゃなくて食うもんだろうよ、ごちゃごちゃ言うなと思った。そうこうしてる間に塩ラーメンが来た。猫舌気味なので最初のうちはスープも麺も熱くて辛いのだが泣き言は一切言わずに黙々と食った。ちょっと涙目になった。麺が無くなったので替え玉を頼んだ。替え玉にはネギが乗っていることをすっかり失念してたので「薬味いらない」と言うのを忘れたが、ぐちゃぐちゃ言うのも男らしくないので結果オーライということにしておく。
このラーメンを食ってる間に、カマーチョどころの騒ぎではない夥しい量の汗をかいた。背中とかびしょびしょになってシャツがペッタリ貼り付くぐらいで、額も鼻のあたまも汗が露になって光るぐらいだ。夕立にでも遭ったような体裁で黙々とラーメンを食った。男らしいじゃないか。そんでいつも拘って飲むわけではないのだけどもスープも残さず全部飲んだ。もう男らしすぎて軽く吐き気がする。スープを飲み干すと丼の底に「チャンス」と書いてあった。完食してチャンスが出たら勘定の際に店員とジャンケンして、勝ったら次回使えるトッピングの券だかが貰えるらしい。ということでジャンケンした。相手はチョキで俺はパーだった。いや普通グー出すだろ。客なんてのはグーかパーしか出さねえんだからあいこか負けになるグー出すだろ。それともなにか、ヌカ悦びさせるためのチャンスか。サービスのふりして嫌がらせか。お前さっきの子供にも勝ってたじゃねえか。あほか。チョキってなによ。しかも握りがちょっと甘いチョキって。いろいろ思うところはあったのだが、にっこり微笑んでびしょびしょに濡れながら黙って店を出た。そんな俺は相当男らしかった。素敵だった。