ケータイ決済

やっぱり本を買うにしてもチラ見というか手に取って内容を確認したいのでそんなにamazonを使う頻度は高くないのだけど、どのみち本屋でも取り寄せになりそうな時や雨が降って車に乗れないときなどは使う。年間10回ぐらい。その支払いの全てを代引きにしてきたのでマーケットプレイスの商品を買ったことがない。新品と比べると安いなあとモニターを恨めしく眺めつつカード番号を入力することにどうしても拒絶反応があって、こ、これは買うしかない!と決意して番号を入力しても送信ボタンをクリックすることをこの手がこの指が許さない。銀行の預金残高も許さない。
先日、会社のドメインを取ったときや借りたサーバー代金の支払いなんかでコンビニの『ケータイ決済』という非常に便利な制度を知るところとなったので、今回amazonで行った買い物の支払いをケータイ決済にしてみた。オナニーを覚えた猿みたいというか、うんこっていう言葉の響きを覚えた小さい子供が繰り返し言うような感じに思われるかもしれないけれど、近いものがあるかもしれないので敢えて否定はしない。うんこちんちん。

すでにご存知かと思われるのだけど敢えて説明を垂れ流すと、まずコンビニに行ってレジのおねーさんに、いや、おじさんは機械に疎いから無理とかそういう意味ではないので、おじさんだろうがお兄さんだろうがおばさんだろうが構わなくて、レジのところにいる店員さんに「ケータイ決済お願いします」と言うと何かチョイチョイっと操作してくれてキャッシャーの液晶画面が決済番号の入力画面に切り替わる。この「ケータイ決済お願いします」と言うときなるべく店員さんと目線を合わせないようにして抑揚のない声で言うことにしている。なぜならばそれが最先端だから。もうちょっとフランクな人付き合いを標榜するならば「あのー、ほら、携帯で支払うやつお願いします」と言えばいいのだけれど、そうすると「じゃあここに携帯を乗せてください」とEdyのことと勘違いされてしまう恐れがあるし、なにより『鈍臭い』。最先端というのは簡素化でありゼロサムなのだ。「ケータイ決済お願いします」といえば「かしこまりました。ピッ」というのが最先端なのだ。もっと最先端になれば「ケ済」「した。ピッ」っとなり、さらに先端では「ケ」「ピッ」となり、最終的には店に入った瞬間にすでに画面が入力のそれに切り替わってることだろう。
実際のところそういう滑るようななめらかさで事が運ぶことばかりではなくて『ケータイ決済』がなんたるかを知らない不届き者の店員がいる。ボクもこの前まで知らなかったけれど。「えーと?これかしら?」とやっぱりEdyを指差すおばさん。「あー・・・っと、パネルのやつね」と言ったきりいつまでも入力画面が出せないおばさん。そんなおばさん(同一人物)がいるのが現状だ。話を中途ぱんぱな位置に戻すけれど、抑揚のない声で言うのはそんな人達に対する挑戦状なのだ。「かしこまりました。ピッ」と即座に反応されてしまうと引き分けもしくは動作のなめらかさ次第では負けの判定が下されるのだけど、バーコードリーダーを持ったまま固まったり、すっとんきょうな顔をして立ちすくんでいたりすれば、勝った!俺って最先端!と、「あー」とか「うー」とか言って緩慢な動きを見せる店員を悠々と眺めることができる。

とまあ、そんなこんなで決済番号の入力画面がめでたく現れたら、11桁の決済番号を入力する段になる。11個の数字を液晶タッチパネルで入力するだけであるから何も難しいことはないのだけど、ボクは中指でボタンを押す癖がある。駅で切符を買うときや煙草の自販機のボタンを押す場合なんかが全て中指でなされる。ともすればあの娘の乳房のポッチすら中指で押してしまうかもしれない。中指でボタンを操作するその手のカタチは端的に「Fuck You!」でありマイウェイを歌う前にゲップするシド・ヴィシャスであり無駄に敵愾心を生んでしまう恐れがある。よしんばそのシグナルを好意的に受け取ったレジのおねーさんが「ファックミー」とか扇情的に叫んだとしてチャックをチーっと下ろそうものなら奥から店長然としたおっさんが躍り出てきて防犯用カラーボールをしこたまぶつけられることだろう。甘い罠には引っ掛からないぜ。そんなことをつらつらと考えながら11個の数字を入力し終わり確定ボタンを押すと、端末に接続されたキャッシャーが取引の情報を引っ張ってきて液晶画面に表示させる。なんとも便利な世の中だよ最先端。

冒頭で書いたとおりこれまでは代引の支払い方法を採用してきた。宅急便の配達伝票には送り先として登録した実名・実住所が記載されておりそんなことは意識したことがなかった。amazonのアカウント名といえばそのときの気分でいい加減な名前で登録していた。そんなことも意識したことがなかった。で、取引情報である金額と注文者名『ロドリゲス』が液晶画面に禍々しく表示されていた。ふと目の前にいるおねーさんを見ると肩が小刻みに震えていた。「2990円です」という声も震えていた。支払いをするボクの手も震えていた。amazonの支払いは代引に限るとおもった。