喪服の次はボイン

パンイチでもっさりしていたら来客だと母に言われ脱ぎ捨ててあった服を着て玄関へ向かうと型ガラスのドア越しに女性らしき人影が見えたので「どちらさまですか?」と尋ねてみたら「わたしペッパーなんとかですー」と奇妙な陽気さで返事があった。わけがわからないかったけれどドア越しに話始めるのもなんなのでとりあえず中へ入るように言うとドアが開き「失礼しまーす」と見た目も奇妙な陽気さ加減の女性が入ってきた。ずいずいっと前進してきたオネーサンは仁王立ちの格好で英会話教室の回し者だと言った。
惜しむらくは目がちょっと離れすぎてることかと脳内審査委員長のコセキユウジロウさんがオネーサンの顔立ちを審査している間も目離れしたオネーサンは奇妙な陽気さ加減で何か宣伝文句のようなことを言っていた。黄色のポロシャツを着ていたオネーサンの首から青いストラップが垂れ下がり谷間に一葉のラミネートケースが繋がれていた。ん?谷間?おお!谷間!奇妙な陽気で目離れしたオネーサンは相当なボインの持ち主だった。
陽気なボインさんはそのうち持っていたファイルを開き住宅地図を見せて教室の案内をし始めたのだけどファイルを胸のあたりで開いていたものだから、地図を指差すふりしてボインを指で突付いて『B地区はどのあたりかな?ここかな?ここかな?えい!えいっ!このっ!このっ!このコリコリしてんのがB地区なんだろ!シラを通そうったって体は正直だよ?!ほらほら!可愛いモニュメントがあるよ!ウフフフフ』と、夢の世界へ旅立ってしまい危うく勝手に如意棒が天まで届くところだった。危機一髪。
黄色いポロシャツのボタンはしっかりと留められていたのでポロリもあるでよ的なハプニングは望むべくもなく、ボインさんの説明も大方済んだような空気が漂ってきたので「ごめんね英語に興味ないんだ」といってトム・クルーズのようなうそ臭い笑顔を作ってみせたらボインさんは急に(どうしてだか脈絡が全く読めないのだけど)驚いたような顔をして、奇妙な陽気さも同時に消えてしまった。うなだれた様相でボインさんは「また興味が沸いたらお願いしますね」と最期の言葉を搾り出した。そこで「ボインには大いに興味があるんだけどね」とトムスマイルが繰り出せなかった俺に乾杯。