かあさん還暦

昼間に仕事が入ってるからということで開店間もないケーキ屋へ突撃してにやにやと苺のショートケーキを自分で買ってきた母は今日で還暦なので赤い苺が乗ってないとダメとか思い込んでいたのかもしれない。それにしても朝っぱらから自分で自分のケーキってどういうご褒美なんだろうか。あんたは有森裕子か。じゃあ親父はゲイなのか。
というわけで95歳で亡くなられた方の葬式に行ってきた。本葬の際にナナメ前に座っていた男性の首筋にポツンとホクロがあってそのホクロから割と長い白髪がぴょろーんと生えていたので猛烈に抜きたくなった。あれをつまんで「ブチっ」と音がするほど勢い良く引っこ抜いたらどんだけスッとするだろうかてなことを繰り返しチラ見しながら思っていたら抜きたい衝動が止まらなくなった。和尚さんがお経をあげているあいだや焼香の列に入ってチンタラ歩いている間もずっとずっとその白髪が抜きたくていい加減に気が狂いそうだったので、なんかお経も佳境に入ったあたりで目を瞑って精神を鎮めてみたらうっかり眠ってしまった。
こっくりこっくりしてたら女性のすすり泣く声が聞こえて目を覚ました。泣くのは誰ですかこっくりさんと10円玉に人差し指を置きかけてここは放課後の教室ではないと気付いて視線を辺りに巡らせてみたら祭壇の前でお別れの挨拶をしている亡くなられた方の孫娘だった。その娘の後ろ姿をぼんやり眺めていたら挨拶も終わりこちらに向き直って頭を下げた。顔立ちとか体つきだとか浮世離れしているわけでもない娘さんだったけれど鳥肌が立つほど色っぽかった。『やべえ』と思った。だいたいいつも葬式に行くとそういう『やべえ』と思わずにいられない娘に出会うのだからいわゆる喪服フェチなのかもしれない。不謹慎とも思える性癖かもしれないけれど母も還暦を迎えたことだしめでたしめでたし。