ブルーバード

まあとにかく忙しいというか慌しい一日だった。あっちこっちへ電話をしたりメールをしたり高速道路を使って北へ南へ移動して、それでもなんだか打てそうな球ばっかり飛んでくるバッティングセンターのような人との関わり方で、どういうのかな、それだけでは脆く崩れてしまうような砂に水を少し混ぜてぺしぺしと周りを叩いて城を築くような、そんな一日だった。
夕方、携帯に着信があった。知り合いから仕事を頼みたいという連絡だったのだけど話がどうにも面白くない。おそらく必要充分なギャラは貰えるのだろうけど面白くない。だって、おれがゼニ出すって言ってんだからつべこべ言わずに黙ってやれというのだから面白いわけがない。自己満足の提灯持ちなんてクソ食らえだとタカ派のおれが吼える。けれども仕事を選べるほどたいしたもんでもないだろとハト派のおれが諌める。ギャラが合わなければその場で断ってるんだけどなと思いつつ請けるかどうか悩む。そうやって砂上の楼閣は音もなく崩れていく。
眠れなくて何度も寝がえりをうちながらこのギリギリしたものはなんなんだろうなとおもう。ご大層な自意識か。自己実現ってやつか。それとも美意識か。ダンディズムだとすれば顔色ひとつ変えずに迷わず金を獲るだろう。そのくせ歯車が噛み合わないのは何が挟まっているんだろう。それこそ自分の自己満足なんじゃないか。仕事をすることで人をいい気分に、ロマンチックな気分に、しあわせにしたいなら彼をしあわせにしてやるだけだ。金はくれるって言ってるのだから悩むことはないだろう。そういえばしあわせの青い鳥ってどんな話だっけ。チルチルとミチルの兄妹がパン屑こぼしながらお菓子の家を食べたり魔女に襲われたりしながら青い鳥をさんざん探してくたびれて家に帰ったら飼ってた鳥だったっていうマヌケな話だっけ。なんかマヌケなところが似てるなって肩の力が抜けてうとうとし始めた。
早朝、けたたましく鳴る携帯のアラームで飛び起きて呼び出された場所に向かう。おじさんとおばあさんと話をしながら作業。これだって、こういうおじさんやおばあさんをしあわせな気分にするためにやっていることだな、と頭の中が昨夜の続き。まあその仮定しているしあわせだって本人たちがそう思ってんのかどうかわからないのだけれど。帰り道、車に載せてあるiPodからキリンジのブルーバードが流れた。きっとしあわせの青い鳥ってのは昼間は空の青が保護色になって見えなくて、夜は暗くて見えないしそもそも鳥目だから飛んでないだろうし、太陽が昇る前の白い空や、オレンジ色の夕焼け空でしか飛んでるところは見えないんだろうなっておもった。