アメリカの葉隠

『死』というものは突然やってくるものだと思っている。時間という割とまっすぐな軸の上を僕らは歩いていてそれをずっと行った先で死が待っているのだけれども、死っていうのはそれだけに留まらずにいつも僕らの周りを螺旋状にぐるぐると回り続けていて、なにかの拍子にそいつに触れると時間の軸から外れて永遠の世界というか、こちらの世界から隔離された別の場所へ飛ばされる。その『死』と交錯した瞬間を思い通りに迎えられる人っていうのはそうそういない。重い重い病床に臥せていたとしてもやっぱり死は突然やってくるのだ。覚悟なんてできない。

グラン・トリノ [DVD]

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レビューの類はいっさい目や耳にしないで過ごして、このまえようやく観てみた。タイトルの『グラン・トリノ』っていうのが一体なにを指しているのか知らなかったので、おそらくイタリアに望郷の念を抱く老人の話とかそういうのだと思ったらイタリア生まれの親父は床屋でイーストウッドポーランドの人だった。で、グラン・トリノとは、Ford Gran Torinoという車の名前で、Gran Torino自体はフォードのスポーツセダンというか、ネットで調べるとバリエーションが多すぎてよくわからない車なのだけど、映画に出てくるやつは「1972年型、429コブラエンジン」と劇中でハゲのチンピラが解説してくれるように、7000ccという化け物みたいなエンジンを搭載した男のロマンを具現化した車であった。7000ccといえば軽自動車のエンジンを10個載せたようなものじゃないけど載せたようなもんだ。とにかく燃費が悪そうだ。
映画の途中で、偏屈じじいのイーストウッドが吐血するシーンがある。もうなんだかそれだけで悲しい予感がしてしまって、隣人の小島よしおみたいな少年との触れ合いなんかを観ているのがキツかった。僕らだっていつ死ぬかわかったものではないけれど、老人というのはなにもなくても死までの距離が近い。でも新米神父と「生と死」について語るシーンの後は、さてはこの爺さん病気で死なねえつもりだな・・・というようなことが気になって、チンピラ一味とのトラブルとかどうでもいいというか、床屋に行って服を仕立てた時点で、なんつうか物凄いダンディズムみたいなものを感じて、淡々と別れの言葉もなく散り際を準備していく様は、冒頭の偏屈な態度よりもっとある種の腹立たしさを感じた。感覚を言葉にするなら「ずるい」と思った。

似てるなと思った漫画

LAST MOMENT 1 (アクションコミックス)

LAST MOMENT 1 (アクションコミックス)

LAST MOMENT 2 (アクションコミックス)

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この漫画も読んだときに爺さんたちに対してやっぱり「ずるい」と思った。