さあおまえの罪を数えろ日記

日曜の朝になるたびテレビの向こう側から罪状認否を要求されるので都度これまでの前科を数えているんだけど逮捕歴なんてものはない。つうか端っから前科者扱いしやがってこのキムタクの偽者めと憤懣やるかたなしであるのだけども、ふと、ひと夏の思い出が甦ってきた。

おそらく小学校低学年の夏休みだったと思うのだけど、その日、僕はひとりでおばあちゃんの家に遊びに行っていた。母の実家であるそこの家には従兄弟がいなくて、もっぱらおばあちゃんに会いに行くようなものだった。おばあちゃんは甘かった。うちではスナック菓子の類は食べさせてもらえなかったのだけど、おばあちゃんにおねだりすればなんでも買ってくれた。とはいってもブルガリの宝石が鏤められた腕時計であるとか、跳ね馬マークの12気筒エンジンを搭載したスーパーカーであるとか、不動産、有価証券の類を購入してもらうのではなく、おばあちゃんの家の隣の駄菓子屋みたいな商店に置いてあるアイスクリームだとかガムだとかのこと。
そう、やっぱりあれは夏休み中の暑い日だった。僕はおばあちゃんに50円を貰ってアイスクリームを買いに行ったのだった。ドラキュラのイラストが描いてあるパッケージの棒のアイスだ。食べると合成着色料かなんかのせいでベロが毒々しい紫色になるぶどう味のやつだった。呑気なもので店の外にアイスのケースがあった。そこからアイスを取って店に入り勘定をしてもらう段取りだった。50円玉を握り締めてケースの中からドラキュラアイスを取って店に入るとピロピロピローンと電子音で来客を知らせるチャイムが鳴った。普段ならその音を聞きつけて障子の向こう側から店の人が姿を現すのだけれど、どういうわけかその日はすぐに出てこなかった。向こうに人の気配がしたかどうかまでは覚えてない。
僕は「すみませーん」と声を掛けた。それでも店の人は出てこなかった。そして逡巡した。僕はアイスが食べたい。金もある。でも払いたくても払えない。買えないのであればアイスをケースに戻してすごすごとおばあちゃんの元へ帰るしかない。いや、でもアイス食いたいものすごく。たぶんトイレかなんかに行っていてチャイムも声も聞こえなかったんだろう。もう一度声を掛けた。それでも誰も出てこなかった。アイス食いたい。手にした50円玉をカウンターに置いてアイスを持ち帰ればいいのだろうか。いや、そしたら店の人がアイスなくなってるの知らずに50円が落ちてたと思って交番に届けちゃうかもしれない。ものすごくアイス食いたいのになんで出てこないんだ。ふざけんなよアイス食いてえっつうんだよ。出てこない奴が悪いんだ。金払うっつってんのに。アイス溶けちゃうじゃねえか。アイス食いたい。あ、ガムも食いたい。
そうして無免許少年は、手にアイスと50円玉とガムを持って走り去ったのであった。