太陽のこどもたち

ハレー彗星もヘールボップ彗星も獅子座流星群も、ああそうですかってなもので然程興味がなく見過ごしてきたように今日の日食にしてもどうでもいいやと思っていた。そんなふうで朝から書類をあっちへこっちへと持ち回っていたのだけど、ちょうど市役所を出たときに空を見上げたら薄い雲の膜の向こうに白く光る太陽に陰ができているのを肉眼で見ることができた。ふと庁舎の方に目を向けると課長さんとか主任とかパートのお姉さんもみんな立って空を眺めてた。
車に乗り込んで駐車場を出ると、薬局のおじいさんとおばあさんも道端で空を見上げてた。なんだか楽しくなった。道すがら、花火のダンボールを運んでいるおもちゃ屋のおじさんも、銀行の支店長も、床屋のおじさんも、魚屋のおじいさん、寿司屋のおばあさん、交通整理のガードマン、郵便配達のお兄さん、ガソリンスタンドのお兄さん、ジャリトラの運転手、信号待ちをしてる車の窓から顔を出してる太った人、ケーキ屋のおねえさん、工事現場の監督さん、スーパーの駐車場にいたお母さんと娘、パン屋の従業員一同、レスキュー隊の人、和菓子屋のネチっこい旦那さん、ブラジル人、喫茶店のヒゲのマスターとその奥さん、煙草屋のおばあさん、小学校のプールにいた子供達、自転車のお姉さん、みんな馬鹿みたいな顔で空を見上げてた。
その割と純度の高い無邪気さを見て僕はなんだか嬉しくなって、ひょっとすると世の中から戦争とかなくなる可能性もあるのかもしれないなんて壮大なことを思ったりしたのだけど、道端に突っ立って間抜け面で空を見上げてたら財布を掏られたなんて人がどこかにいるかもしれないので、まあ、あんまり能天気なことは考えないようにしたほうがいいなとか、だからこそ人の無邪気な様を見て楽しくなったのかもしれないなとか、まあ、そんな感じだ。