本格的にふつうの日記

タバコ屋へ行った。辻のところにある小さな店でばあさんが小窓の奥で畳の上にひざ掛けを掛けて新聞を読んだりテレビを観たりしてて、店の外には宝くじの幟が立っててカウンターの上には太った猫が寝たフリをしているような店ではなくて、いわゆる土産屋だ。田舎に行くと必ずあるような果物やらまんじゅうやらいろいろ置いてある店。その一角で太ったおやじがコイーバの紫煙をくゆらしているような店。タバコも切らしていたのだけどライターも持っていなかったので、その太ったおやじにマッチをくれと言った。マッチなら1箱10円だし、あわよくば無料で貰えるからなのだけど、おやじはライター買えばいいのにと言う。家に帰るまで1本吸うだけだからマッチで充分なのだと言うと、だったらそこに腰掛けてここで吸っていけと言われたので勧められるまま、おやじの隣に座っていろんな銘柄のタバコを眺めつつ疫学的な推計によると心筋梗塞の危険を高める行為に身を投じた。ダメおやじ揃い踏みという図。
車内が静かだと居た堪れない気持ちになってしまうタクシー運転手のように「すっかりタバコも悪者にされちゃいましたねえ」とかなんとか話しかけ沈黙を破るよう試みてみたら、なんかよくわからないけれど暴力団の話にすり替えられてしまった。確かにタバコと悪者は登場するのだけど内容的にダークすぎというかディープすぎなので「はあ」とか「へえ」とか言うしかなくてちっとも会話が弾まなかった。そんなこんなで1本吸い終わる頃「あんたなに吸ってんの?」と聞かれたのでパッケージを見せたら、「そんなのだめだめ。これ香りがいいよ。嗅いでごらんよ」とBlackStoneというタバコを差し出された。封の上から嗅いでもバニラの甘い香りがする。390円。「いい香りでしょう。これならオンナのコにも嫌な顔されないよ」とおやじが言う。そんなわけないだろうと思いつつもライターの100円はケチったけれどもおやじのそういう営業努力に報いるために1箱買った。そしたら「こんなのもあるぞ」とイチゴとかサクランボの香りがする同じ銘柄のタバコを出してきた。
箱を手に取って香りを嗅ぎながら「なんだかカキ氷とかソフトクリームみたいだ」とおやじに言うと「おうおうそうだ。ソフトクリーム食べてってよ」と言われた。店先にソフトクリームの機械が置いてあったのを思い出して、しまった!と思ったのだけどもう遅くておやじは奥へ引っ込んでコーンを手に持ってきてた。断ることを諦めて食べることにして、いくつかある味の中から『なんとかピール』を選んで200円払った。代金と引き換えにアイスが載ってないコーンを手渡されたので「これバカには見えないとか言うんじゃないよね」と言うと「自分でやると楽しいんだよけっこう」と言いながらカップアイスを機械にはめ込んだ。「構えて」と言われたので出口みたいなところの下にコーンを構えたらおやじがボタンを押した。星型の穴から薄オレンジ色のソフトクリームが出てきたので写真見本のようになるようコーンを回したのだけど、以外と難しい。つうか出てくんのが早い。あ、あ、あ、と思っているうちになんだか得体の知れないカタチになってしまった。ヘッドフォンとかのコードを束ねて縛った感じ。これ以上ここにいたら小銭をせびられると思ったので、その得体の知れないソフトクリームを手に店を出た。味はふつうにおいしかった。