インサイダー取引日記

世界的な大不況だ日本経済の終末だなんだと景気の悪い話しか聞かなくてウンザリする。さらに厳しい時代を生き抜くために今後の身の振り方の参考になるからといって講演会に誘われた。机仕事が忙しくてそれどころではないと断りもできたのだけれども、そういうところに顔を出すのも仕事のうちと言い聞かせて行ってみたら、金融機関の偉そうな人が年金の仕組みについてわかったんだかわかんねえんだかとにかく専門用語ばっかりの念仏のような話を長々とするものだから、南無、というまに居眠りをしてしまい、陀仏、という間に講演は終了となった。
一昨年からお付き合いさせてもらっている愛すべきおっさん(45)が、年金受給要件が60歳から段階的に65歳へと引き伸ばされておりそしてさらに67歳へ果ては70歳へと上がっていく気配に対してひとかたならぬ関心を抱いておったので、一体どうしたことかと尋ねたら昨年の秋に台湾へ旅行に行ったのだという話をし始めた。現地で占い師曰く「アナタノ寿命ハ短ク、アマリ長生キデキナイアルヨ」と宣告されデッドラインは65歳なのだそうだ。ということは67歳まで待ち年金を受け取ろうにも享年65歳で既に死んでおりこれから20年の間老後のためにと積み立てるのが馬鹿らしいので今後は酒場でじゃぶじゃぶ使い込んでやるとの話であった。
飲みに出掛けるのはやぶさかではないけれどもそんなヒョーロクダマの与太話なんか真に受けちゃいかんですよと慰めたら、その占い師は受付らしいこと、名前や年齢や職業や生年月日等の個人情報の取得をせず、ただじっと2分ばかし顔をじいっと見詰め、徐に「アナタノ守護霊ハチョメチョメデアルヨ」と告げ、続けざまに家族構成やら健康状態の詳細についてビシビシ言い当てるのだという。その超能力的なナニカにほほうと関心しているうちに件の「オ前ハズデニ死ンデイルアルヨ」と死の宣告がなされたのだという。ユアショック。愛で空が堕ちてくる。序盤が完璧に当たってるだけにある種の覚悟を決めたのだそうだ。

浄土

浄土

いま読んでいるこの本に短編がいくつか収録されておるのだけれども、最初の『犬死』という話も占い師に死の宣告をされる話で、なんというか占い師恐るべし、と戦慄した。だがなぜ占い師という生業をされておらっしゃる人々は株を買ったり先物取引をしたり、競馬競艇競輪やオートレースであったり、ナンバーズの類、或いはパチンコやパチスロなどであぶく銭を稼いで懐に入れぬのかしらんと疑惑が胸中に去来する。「やあやあ、俺さあ店が閉まったら占い師やってんだけど、あんた凶相出てっから後で占ってあげよっか?え?うへえへ」と銀球が満載の合成樹脂製の箱を足元から堆く積み上げにっこり微笑むと全部金歯で指という指には煌く宝石が七色に輝き壱百萬円の札束がいくつか無造作にズボンの尻に突っ込まれている、というような姿の占い師とパチンコ屋で隣同士になった試しがない。いれば素早く札束をくすねたい。
他人に興味を持つ前に、まず己が何者でどこから来てどこへ去ってゆくのかを知りたいのが人の性だとするならば、やはり超能力占い師といえども自分の未来を真っ先にみて「ああ、おれって37歳の冬にクリスマスを一緒に過ごそうとしてた女性にこっ酷く振られて自棄になって喰った河豚に中って死ぬのか・・・」などと絶望的な死に様をまだ幼い頃に目の当たりにしてしまい悲観に暮れて自らの命を絶ってしまったりしていて、いまの世の中にいる占い師というのは烏帽子的には紫に届かない藤色な「たまにハズレる」といった連中ばかりなのかもしれない。
もしこれを読んでいる超能力占い師の方がいらっしゃるのならば、今日抽選のロト6は何番を買えば1等が当たるのか可及的速やかにご教授願いたい。相応の謝礼はしますんで。