おしゃれどろぼう日記

これまで冬期の防寒具といえば革のライダースジャケット(若しくはスーツ用のコート(大人として))しか認めないパンクロックナウエブリデイな日々を過ごしてきた。15年ぐらい前の冬の始めに新宿スタジオアルタの4階あたりの洋品店へ万札を数枚握り締めて行って手にした黒光りするSHOTのライダースジャケット一丁でどんな冬も乗り越えてきた。中に毛布みたいなボアを付けたり外したりできるようになっててクソ重たいけどライダースって呼ばれるぐらいだから風なんか全然通さない防寒っぷりに惚れ込み、シュチュエーションもヘッタクレもなくその黒い鎧を初冬から春が訪れるまで毎年着倒してきた。やがて漆黒に輝いていた革は白く擦れポケットには穴が開き袖口の糸はほつれて幾分みずぼらしい様相を呈してきたけれど、流行廃りに敏感な小洒落たオトナたちへの反抗声明としてボロは着てても心は錦的な矜持でもって決してその革ジャケットを着ない冬はなかった。つかまあ他のやつ買う金が惜しかっただけなんだけど。

そんなパンク魂を揺さぶる出来事が暮れにあった。その日はユニクロで叩き売りされてたグレーのハンチングをかぶっていつものようにライダースに身を包んでいたのだけどその格好を見たトモダチがとんでもないこと言いやがったんだ・・・

なんか、その格好って、泥棒みたいだよね クスクス

膝から崩れ落ちそうになる自尊心を必死で鼓舞して「おまえのハートを盗んじゃうぞう」って言葉を苦し紛れに弱々しく吐くのが精一杯だった。貧乏臭いとかみすぼらしいとかいろんな揶揄には耐えてきたけれど、泥棒て。言うに事欠いてドロボウて。なんとも嫌な響きだドロボー。てやんでいどろぼうめ。だいたいなんなんだ泥の棒だよ?カチカチ山のたぬきでさえ泥の舟なのに、おれは棒かよ。泥の棒かよ。おれのちんこはドロドロじゃねえぞ!ファーック!

そんなわけで「ダウンジャケットなんか着るぐらいなら羽毛布団を体に縛りつけたほうがマシ」と言ってたおれも遂にあのモコモコに手を出したってわけさ。あのボンレスハムみたいなキルティングみたいな、あの縫製が気に食わなくて白いダウン着てる奴を見ると心の中で『ビバンダム』呼ばわりしてたおれが呆気なくダウンジャケットの軍門に下る日が来るとは思いもしなかった。初売り30%〜50%OFFって足元見やがる店にのこのこ出掛けていって羽織ってみたらちょう軽いのね。空飛べるんじゃね?ってくらい軽かった。水子の霊も吹き飛ぶ軽さだった。そんな大層なもの背負ってないけど絶対肩凝りとかの原因にはならないぐらい軽かった。そんで温かい。ちょっと動くと暑苦しいぐらい温かい。いままで君のこと知ってたつもりでも全然見ていなかったよ、これからゆっくりお互いのこと知ってゆこうね、だから全部見せて、恥しくないよ?みたいな感じ。ダウンジャケットちょういい。軽くて温かくてフカフカでモコモコでなにより泥棒臭くない。

みんなも泥棒みたいな格好してないでダウンジャケット着たほうがいいよ。