平民新聞との邂逅
平民新聞をまじまじと読み始めたのは『携帯写真の名誉回復に向けて』という記事だった。それまで平民新聞っていうのは、皆さんご存知の通りに左上のプロフィール欄にわけのわかんない写真と文章があって、おそらくなにか政治的なことを偉そうに語っているようなダイアリーだと思っていた(妄想猛々しくてすみません)。ところがよくよく書かれていることを読んでみれば別に攻撃的な人ではなさそうだった。でもよくわかんない。巧妙に造り込まれた愚直な雰囲気に騙されているのかもしれない。背中を見せたらバクっとやられるかもしれない。まあ、たかだか日記を読むということに対してガッチガチに身構える必要も無いんだけれども。とにかく、このわけのわからない人のわけのわからない日記は面白いと思い始めた。
とはいえ大仰に語れるほど深く読み込んでいたわけでもない。掲載している写真だってあの日記の文章のように力の抜けた感じで適当にパシャッとやってるものだと思っていた。あるときのブックマークコメントに付いた引用スターで結構苦労していることを初めて知る程度で。そんなふうにぼんやりと眺めていた文章や写真について、なんだかこの人は『死』というものについて僕とは違う捉え方をする人だなと思うようになった。そしてXデイが訪れる。2008年3月12日。奇しくも僕の誕生日に彼はひとつの宣言をした。
(前略)ここまで散々書いてきたみたいに、自分のブログをきっかけにして人生どーのこーの、とか言ってしまうと、間違いなくたくさんの人からは馬鹿にされそうですし、ブログはブログ、現実は現実、というような考え方が結局のところは当たり前なのかもしれないけれど、ぼくはあえて、この場で強気に、そういった言説に対し逆張りしてみたいと思います。これをきっかけにすてきなことがたくさんありますように、という思いを込めて。
『鉄のバイエル』未収録写真と、ひとつの宣言
思っていても誰も言わないことをあえて言い放ちやがった。心臓がばくばくした。だけどネット上で「感動した!」なんて言ってるだけじゃ話が前に進まない。僕の中で発生した濁流のような変化の兆候を風化させたくなくて彼に仕事を紹介するべく知り合いにカメラマンが必要じゃないか聞いたりしたのだけれど仕事は見当たらなかった。写真が必要なことってなんだろうって数日グルグル考えていたときに、カメラマンを必要としている奴を一人見つけた。僕だった。ははは。早速メールで内容と予算を伝えたら被写体が専門外というか被写体として撮影するのはこれまでになかったことだろうけれど彼は引き受けてくれた。
はっきり言って僕には写真の技術的な知識は何もないけれども、彼の言う『心象風景』ってやつは僕にもわかるというか僕が写真から受け取るものはそれしかない。彼の写真のネガポジは『死』の匂いがする。ここで言う『死』っていうのはなにかこうモヤモヤしてて言いようのないものなんだけど。ネガポジを反転させたポジポジ?と呼ぶべき僕たちが写真を通して感じる風景は『死』を反転させた『生』だからこそ彼の写真が"妙に"生々しいのだと思う。とにかくそういう匂いを邪魔したくなかったから写真に関しては全てまかせた。
撮影は二日間の予定で行い一日目が終了したら焼肉を食べに行った。安い焼肉屋だけどこの街で一番好きな店に連れて行った。煙と油にまみれた焼肉屋でモツを食っていたら彼がカメラを取り出し、レンズを油まみれにしながら僕を撮った。そしてこんなことを言った。
僕が写真を面白いって思うのは、この写真てこの後の帰り道で無免許さんが交通事故とかで死んだら最後の写真になるじゃないですか。ね、おもしろいでしょ?
なんて縁起でもないこと言いやがるんだこの野郎。と思ったけれどもなんだかジワーっと嬉しくなった。死生観なんていう無味無臭な一言では済まされない『死』に対する強烈な意識というか、実際のところ『死』というのは身近にそこかしこに潜んでいて裏表というか水際というか、生きていること事体が不思議なくらい世の中は死で満ち溢れているのだけど、その風景が見えている人っていうのは僕も含めてあんまり居ないんじゃないかと思う。彼が纏っている『死』の感覚に触れてそこらへんを感じ取れていた自分に対して嬉しくなった。
彼が今よりずっとずっと売れっ子になったとき「まだあいつが無名だった頃、俺がさんざん面倒みてやったんだ」なんて偉そうに言ってる自分を楽しみにしている。平民金子氏に幸あれ。
というわけで
依頼した写真が皆さんの目に触れるのはもうちょっと先か、あるいは目に触れることなくネットの大海のどこかに漂うことにするのか決めかねています。なるべく多くの人に僕の仕事や彼の仕事ぶりを知ってもらいたいとは思うのだけど、面倒ごとに巻き込まれるのはごめんなので今日のところは「平民金子すごい!」というところだけ知っておいてください。どうしてもという方はメール*1でご連絡ください。公開次第ご連絡します。
さらに
こんなんじゃ伝わんないかなと思ったのでプレミア公開しておきます。
撮影:平民金子