美容院にて日記

ついカッとなって仕事中に美容院で髪を切ってきた。カッとなっただけにっていうね。
いつも整髪料も香水の類も付けないものだから耳の後ろのあたりから空気が黄ばむほどの加齢臭を放っているのだけども、仕上げにワックスをつけてくれたのでなんかいい匂いがしてる。これからはどんどん整髪料を髪だけとは言わず体じゅうに塗りたくっていこうとおもう。
そこの美容院の店長さんは、このまえ召集して飲み会したおっさんの奥さんで、椅子に座ってケープを羽織ってる間に「このまえの飲み会、アンダートークが炸裂したって聞きましたよ。そういう人だったんですね・・・」と言われ、まるで上司から君にはガッカリだよと告げられた部下のような気分になって脇の下に変な汗が出た。じっとりと汗ばみつつ、あれは潤滑油みたいなものっていうか挨拶代わりっていうか、その、ほれ、アレだ、とかなんとか言いながら、どうして人格者ぶらなきゃならないんだろうとかおもった。オンナノコに手を出したわけでもないのに。
おっさんだけで飲んでいると次第に、品がなくなっていったり愚痴っぽくなったり奇妙なヒエラルキーが作られたり喧嘩が始まったりするので、頃合を見計らってオンナノコがいる店に移動するのが理に適っている。たいがいがエエカッコシイなのでオンナノコの前ではある程度わきまえるからなんだけど、まれにエエカッコシイが過ぎるおっさんもいて実際に興味がないのかもしれないのだけど盛り上がりに欠ける場合があって、そんなときにちんこまんこ言って紳士的な振る舞いをみせるおっさんを一旦蚊帳の外に置いておいて無理矢理ボルテージを上げていく。
基本的にオンナノコは「やだー」とか「エロおやじー」とか言って本当は濡れているくせに一応拒否するようなことを言う。いや、たぶん本当にひどいおっさんとか思ってるだろうけど、そうなるとどうなるかといえば、紳士的な振る舞いをするおっさんに助けを求めるように向き直って会話を始める。興味なさげにしてるおっさんといえどもオンナノコに至近距離で社交辞令とはいえ褒められれば、弛緩剤を打たれたようにぬめぬめと態度が緩んでくる。僕はピエロになりながらそれを待つ。そして機が熟した頃にはおっさん全員でおっぱいおっぱいと大合唱することになる。
そうやってオンナノコがいる店ではアンダートークを駆使して場をオーガナイズしているんだよ、と髪を切ってもらってる間じゅう店長さんに長い長い説明をしてみたのだけど、彼女は折り畳みの鏡を開きながら一言「ふーん」と気のない返事を寄越してカットを終えたのだった。