はなびのおじさん

従姉妹ユキエ(26)に恋心を抱いているタカシ(18)。東京の大学に合格し田舎を離れる前に親父と2人だけで寿司屋で小さな祝賀会をやったとき、熱燗が効いたのかいつになく饒舌になっていたタカシは幼い頃から密かに想いを寄せていたユキエについて実父ショウキチ(52)に打ち明けた。「俺はユキエ姉ちゃんと結婚したいんだ!」押し黙るショウキチ。カウンターの向こうで握っていた大将も思わず固唾を飲んでショウキチの言葉を待った。長い沈黙の後、クイっと一口あおってからショウキチは諭すようにタカシに言った。「いいかタカシ、俺だってユキエちゃんがウチに来てくれりゃあ嬉しいよ。でもなタカシ、お前も知ってるようにあそこは花火屋だ。おじさんは屋号はどうでもいいけど婿は花火職人じゃなきゃだめだっつってんだ。このあいだだってケイコおばさんが持ってきた見合い、そうそうあれだ頭取の次男だったかな、あの話だって花火職人になる気がねえんならっつって断っちまんだ。あれじゃユキエちゃんが可哀想だよ」そう言うとショウキチは徳利を持って手酌をしてまた一口にあおった。「大将。熱燗もうひとつ」握る手を止めて話に聞き入っていた大将は声に驚いて我に返ったのだけど聞き耳を立てていたのが知られてバツが悪く「へい」と言って奥に引っ込んでしまった。タカシは酔った勢いで叫んだ「俺、花火屋になる!」それを聞いてショウキチは「ばか言うんじゃない。お前農大どうすんだ?日本一の山羊使いになるんじゃないのか?」タカシはいろんな思いが錯綜し言葉を失っってしまいカウンターに突っ伏して嗚咽を上げ始めた。宙を見るようにおしながきを眺めるショウキチ。そこへ真っ赤な顔をした肉付きのいい女の子が熱燗を持ってやってきた。女の子はカウンターへ徳利を置くと「お、おじさん。あ、あたしじゃダメかな・・・」とショウキチに小さく囁いた。「ありがとうねミサエちゃん。こいつが一人前になったらまた言ってやってよ」とショウキチが優しく返事をすると女の子はさらに頬を赤らめて奥へ戻っていった。入れ替わるように大将が奥から出てきて「へへ。ウチの娘がすいやせん」と照れたような申し訳なさそうな顔で頭をペコっと下げた。ショウキチは黙ったまま微笑んで手酌で熱燗をあおった。隣で突っ伏したままのタカシはいつしか寝息を立てていた。3年後に一本の電話がタカシの元へ入ることになるのだが、それは訃報ではあったけれどある意味朗報でもあった。

先日のこと

「あー。はなびのおじさんなくなったから」と携帯の留守電に入っていたのだけど、知り合いに花火職人や関係者はいないし知らないおっさんの声だったしそもそも知らない番号なので単に間違い電話だとおもって放置してる。