ソープランドの記憶

そんなに緊張しないで。合コンとかでその日にエッチしちゃうことあるでしょ?ふふ。妙齢のお姉さんは黒のチャイナドレスを脱ぎながらそう言って微笑んだ。僕の頭の中は不思議なほど醒めていて、しゅるしゅると音を立ててドレスがすべり落ちて露になる肢体を見ながら、この人はどういう人生を送ってきて今ここで、僕の目の前で裸になろうとしているのだろうかと考えていた。
たっぷりと湯が張られた風呂に浸かり、お姉さんはどこから来たの?と尋ねると、少し東北訛りがあるようなイントネーションで、わたしはトウキョウだよ、と言って洗面器にぶくぶくと泡を立てている。ああ、こういうことは聞いてはいけないのだと僕は思い、じゃあ、そのおなかの傷はなに?と尋ねようとして、そんなことはもっと聞いてはいけないことかもしれないな、でもあの位置に傷があるってことは帝王切開で子供を産んだってことじゃないのかな、というようなことを黙ったまま頭の中でつぶやいた。さあ用意ができたわ、と言ってお姉さんは中央が窪んだ椅子に腰掛けるよう僕に促した。僕は浴槽を出て椅子に跨るような格好で座り、ここで僕はどうしたらいいの?と尋ねると、わたしがすることはあなたもしていいのよ、と言って僕の身体を泡で包み身体を密着させて胸や腕や足を洗い始めた。いやらしさは微塵も感じなかった。
ぼんやり座っているのも暇なので洗面器に手を伸ばして泡を掴んでお姉さんの身体を洗った。おっぱいを洗いおなかを洗っているときに傷に触れた。その瞬間、眠っていた記憶が呼び起こされ全てを理解した。僕は咄嗟に「おかあさん!」と叫んだ。するとお姉さんは、おかえりなさいわたしの坊や、と言って泡になって消えた。僕は泡が消えてゆくのを間抜けな格好で見てた。
という夢を見たのだけど、どうしてこうなりましたか。(37歳・自営業)