キース・ムーンが爆破したドラムセットのカケラ

三十も半ばを過ぎてもうじき頭皮や脇の下から仁丹の臭いがしてくるのではないかと慄くような年齢になると、自身の能力や才覚に限界があることを認めざるを得ないというかその限界が年々身近なところに差し迫ってくるような焦燥感すら覚えて、あまりパッとしなかったこれまでと輝かしいはずのこれからに大差がない気がしてがっかりすることも少なくない。とはいえ心意気だけは腐らせてはいけないと思い「おれは空だって飛べる」なんつって嘯くこともあるのだけれどもそれを本気で言ってるなどと思われでもしたら少々精神がメルヘンチックな人だと判断されて拘束衣なんかを着せられてしまうやもしれないので、あくまで比喩表現ですよという前口上を述べた上で空を飛ぶと言うだけの悲しい中年の処世術である。本来なら「君がいれば空だって飛べるさ」的な口説き文句でもって若いオンナのコを誘惑した後に自家用セスナか何かを操縦しながら助手席のオンナのコの太腿を擦って「ほら、飛べるだろ?」とか言うのが正しい中年の在り方ではないかと思うのである。セスナに助手席があるのかどうか知らないけれども。

さておき能力の限界を感じてしまった以上はあれこれを自分でやろうと孤軍奮闘したところで遅まきながら訪れた青春の疾走と蹉跌といった具合に躓くのは火を見るより明らかであるので、ここらへんが限界かなと思ったところから先の事柄からは潔く手を引き大義を果たす為に他人を信頼し下駄を預けることが肝要ではないだろうか。決して逃げているわけではない。餅は餅屋であり風が吹けば桶屋が儲かるのである。ただ人を使っているなどという不遜な言い回しではなく人にして頂いているという謙虚さでもって事に当たらないとならない。いくら企画が素晴しかろうと見返りが法外であろうと踏ん反り返っていては人は動かぬもの。キャバクラの店長が「おめー今夜シャンパン10本入れさせたら褒美におれのマグナムをブチ込んでやる」などと戯言を抜かしても余程の淫乱なお嬢さんでない限り動かないだろう。「ご面倒をおかけしますが今宵シャンパンを10本程受注して頂ければ些少ではございますが拙のジンロを貴女のマッカランいいちこさせて頂いて鍛高譚と腰を振ってご恩返しができるかと存じます。若干アーリータイムスなのはご了承ください。クリコ」とかいう置手紙をそっとロッカーに忍ばせるような心遣いがお嬢さんの琴線に触れることだろう。触れないか。触れないよな。

そこで登場するのがドン・キングだ。英語に疎くてプロデュースとプロモートをごっちゃにして申し訳ないのだが細かいことに拘らない寛容さが人間大事だと思うのでごちゃごちゃ言いたい輩はホチキスで唇を留めてやるという気骨で無視するのだけれども、他人を使って事を成し遂げる人物像として彼以上の人材は軍師とか麻薬王などが挙げられるのだが名前を知らないし顔も浮かばないのでその手合いの代表選手としてモデルになって頂く。まずドン・キングの何が凄いかといえば頭髪だ。寝てたら勝手に逆立ったというドリフ大爆発みたいなあの髪型が凄い。おそらく寝てる間に「あの地球人のようにな、ククク」「クリリンのことかー!しゅいんしゅいん」というような夢を見てスパー・ドン・キングになったものと思われる。そして触れざるを得ないのが名前。なにしろドンでキングなのだ。首領で王様というキングオブキングでありワンノブゼムでありドンキーコング略してドンキングなのである。お酒はぬるめのドンキング、古池や蛙飛び込むドンキング、ブレーキランプ5回点滅ドンキングのサイン、向かうところ敵なしである。

えーと、なんだかもうよくわかんねえや。ファッキュー!